100辞書・辞典一括検索

JLogos

71

「事業に頂上はない」


【名言・格言者】
松下幸之助(パナソニック株式会社創業者)

【解説】
 松下幸之助(まつしたこうのすけ)氏は、1894年、和歌山県に生まれました。家庭の貧窮により、9歳で小学校を中退し、親元を離れて大阪の火鉢商店に丁稚奉公に出ました。1910年、大阪電灯に内線見習工員として入社するも、かねてより考案していたソケットの改良に専念するために独立を決心し、1918年には松下電気器具製作所(現パナソニック株式会社)を設立しました。その後、「2灯用差込みプラグ(二股ソケット)」「自転車用砲弾型電池式ランプ」など画期的な製品を生み出し、その名は世界中に広がりました。実践に基づく独自の経営哲学を説き、現在では「経営の神様」と称されています(1989年逝去)。
 冒頭の言葉は、「経営者は、不断の熱意を持って、日々前進する努力をしなくてはならない」ということを表しています。
 経営者に必要な条件には、知識や知恵、技術などさまざまなものがありますが、松下氏は、その中で最も重要なものは「熱意」であるとしています。熱意があれば、先を見通す「読み」の力が自ら備わってきます。また、熱意は周囲にもよい影響を与え、多くの人々を動かすことができます。このため、たとえ知識や知恵、技術が最高でなくとも、真実に基づいて経営を行うという熱意だけは誰にも負けないものを持っていなくてはなりません。
 松下氏が松下電気器具製作所を創業した当初、社員は松下氏と夫人、義弟の3人だけでした。松下氏は、資金も仕事の経験もほとんどゼロの状態から一歩一歩手探りで事業を進めました。やがて、製品と社員が増えてきましたが、松下氏は、社員が10人いる時も、現状に甘んじず、社員が15人になった時のことを考えていました。このように、松下氏は、一度に大きく飛び上がることはなくとも、絶えず向上する意欲を持ち、「もう一歩、もう一段上がってやろう」と常に心がけていたのです。
 松下氏は、次のように述べています。

「今月は売り上げが1000万円だけれども、来月1500万円売るにはどうしたらいいか、経営者は絶えず求めるものを持たないといけない。経営というものは、いってみれば終わりのない壁画をかき続けるようなものだから、つねに、そういう希望を持っていなければならないと思う」

 世の中が常に動いている以上、経営を取り巻く環境も刻一刻と変化しています。このため、経営者の考えも一日一日、進んでいかなくてはなりません。だからこそ、事業には「ここが頂上で、これでおしまい」というものがないのです。常に努力を怠らず、絶えず先を目指して前進し続ける姿勢こそ、すべての経営者にとって不可欠なものだといえるでしょう。
【参考文献】
松下幸之助経営語録」(松下幸之助、PHP研究所、1993年6月)
「私の履歴書 経済人1」(五島慶太、杉道助、堤康次郎、新関八洲太郎、原安三郎、松下幸之助、山崎種二、石坂泰三、出光佐三、伊藤忠兵衛、大谷竹次郎、高碕達之助、遠山元一、日本経済新聞社、1980年6月)




(c)日経BP社 2010
日経BP社
「経営のヒントとなる言葉50」
JLogosID : 8516400