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「未熟でいるうちは成長できる。成熟したとたん、腐敗が始まる」


【名言・格言者】
レイ・クロック(マクドナルド創業者)

【解説】
 レイ・クロック氏は、1902年、米国に生まれました。高校を中退した後、ペーパーカップのセールスやピアノの演奏などの職を経て、1938年には独立してマルチミキサー(一度に多くのミルクシェイクを製造することができる機器)のセールスを始めました。1954年、カリフォルニア州でハンバーガーショップを経営していたマクドナルド兄弟と出会い、同店を「マクドナルド」としてフランチャイズ展開する権利を獲得しました。1955年にマクドナルド第1号店をオープンして以降、全米におけるマクドナルドの展開に成功し、マクドナルドはやがて世界へと大きく飛躍しました(1984年逝去)。
 冒頭の言葉は、「未熟な状態こそ、無限に成長できる大きな可能性を秘めている。自身の未熟さを認識し、絶えず成長する意欲を持つことが重要である」ということを表しています。
 1954年、マルチミキサーのセールスを行っていたクロック氏は、ある不思議な現象に気づきました。いつのころからか、「カリフォルニアのマクドナルド兄弟が使っているものと同じミキサーが欲しい」という注文が頻繁に届くようになったのです。調べてみると、そのレストランは8台ものマルチミキサーを所有していることが分かりました。これに関心を持ったクロック氏は、そのレストランを実際に訪れて驚きました。
 マクドナルド兄弟が経営するレストランには、数多くの顧客がひっきりなしに訪れ、長い行列ができていました。しかし、店のスタッフは多くの顧客を次から次へと効率的にさばいていました。マクドナルド兄弟は、作業効率をよくするために、当時主流であったドライブインスタイルの店舗をテイクアウト中心のスタイルに変更し、メニューを最小限に絞り込んでプロセスを簡易化するなどして細かい品質管理を行い、常においしい料理を顧客に提供することを可能としていたのです。
 このファストフードの原点となるビジネスモデルに大きな可能性を感じたクロック氏は、自身がマクドナルドのフランチャイズ権を獲得し、オーナーを募り、フランチャイズビジネスを行うことを決意しました。1955年、クロック氏はマクドナルドシステム社を設立し、マクドナルドのフランチャイズ展開を開始しました。その後、マクドナルドは効率化された調理システムと高い品質によってまたたく間に店舗数を伸ばし、現在では世界的な大ハンバーガーチェーンとなっています。
 経歴からも分かるように、クロック氏は飲食業の専門家ではありませんでした。しかし、だからこそ、客観的な視点でマクドナルドの将来性を見抜き、それをさらに発展させるための取り組みを発想することができたのです。クロック氏がマクドナルドのフランチャイズ権を獲得したのは52歳のときでした。当時、クロック氏は長年の激務で体調を崩していました。しかし、生涯最高のビジネスが待ち受けていると確信し、新しい道に進むことにためらいはありませんでした。
 ビジネスに関して、クロック氏は常々次のように述べています。

「Be daring(勇気を持って)、Be first(誰よりも先に)、Be different(人と違ったことをする)」

 一般的に、「未熟」という言葉はマイナスのイメージでとらえられがちです。しかし、見方を変えると、その分、これから成長するための「伸びしろ」が内包されているとも考えられます。自身が未熟であることを認め、かつ努力を惜しまない人こそが、未熟な状態からさらに成長することができるのです。
 成熟に甘んじると、その時点で成長は止まってしまいます。特に、現在のような変化のスピードが速い時代においては、成長を止めた企業は、あっという間に衰退の一途をたどってしまうかもしれません。クロック氏の言葉は、常に成長を追い求める経営者すべてが念頭に置くべきものだといえるでしょう。
【参考文献】
「成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝 世界一、億万長者を生んだ男」(レイ・A・クロック、ロバート・アンダーソン(共著)、野地秩嘉(監修・構成)、野崎稚恵(訳)、プレジデント社、2007年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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