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「困難は避けるものではなく、解決するものである」


【名言・格言者】
カルロス・ゴーン(日産自動車株式会社取締役共同会長兼社長)

【解説】
 カルロス・ゴーン氏は、1954年、ブラジルに生まれました。1978~1996年までの18年間ミシュランに在籍し、1996年にはルノーの上級副社長に就任しました。この間、経営困難に陥っていたミシュラン・ブラジルやミシュラン北米、そしてルノーを、大胆なコストカットやセクショナリズムの排除などにより次々に再生しました。1999年、ルノーと日産自動車株式会社(以下「日産自動車」)の提携に伴い、それまでの企業再生の手腕を買われたゴーン氏は、当時危機的な状況に陥っていた日産自動車のCOO(最高執行責任者)に就任しました。そして同年、日産自動車の再生計画である「日産リバイバルプラン(NRP)」を、2002年には再生の仕上げとなる計画の「日産180」を発表しました。2005年9月末、日産自動車は「日産180」のコミットメント(達成すべき目標)を達成し、完全復活を宣言しました。 冒頭の言葉は、「経営上のさまざまな困難こそが、経営者としての能力を高める絶好の機会である」という信念を表しています。例えば、ゴーン氏は、自身の著書である「カルロス・ゴーン経営を語る」(日本経済新聞社)で次のように述べています。

「経営には絶対的なモデルなどありません。経営というのは、実際に仕事に取り組みながら、その場、その場でいちばんいい方法を見つけていくものだからです。その意味でいうと、困難な状況に置かれたときこそ、経営者は鍛えられます」

 ゴーン氏の経歴は、まさに彼がこの信念を実践してきた足跡であるといえます。ハイパーインフレが原因で経営難に陥っていたミシュラン・ブラジルをはじめ、彼が在席した企業は、さまざまな困難に直面していました。彼はこれらの困難を一つずつ克服し、さらにその経験を次なる困難の克服に生かしていきました。この貴重な経験が彼の経営者としての手腕を磨き、彼の名前はビジネスの世界で広く知られることとなったのです。
 また、同時にこの言葉は、「経営者は、企業に関するすべてに対して責任を負わなくてはならない」という信念をも表しています。ゴーン氏は、NRPの発表に際して「コミットメントを達成できなかった場合、自分を含めた取締役全員が退任する」と約束しました。従来、日本企業は経営上の責任の所在をあいまいにしがちでした。このため、具体的なコミットメントと明確な責任の取り方を伴ったNRPは、経営者としての責任に関する強い覚悟の表れとして、多くの人々に強い衝撃を与えました。ゴーン氏は、この信念に基づき、改革によって社内外に生じるであろう摩擦を恐れず、日産自動車の再生のみを目標とし、経営者としての責任を全うすべくNRPを推し進めたのです。
 ゴーン氏が日産自動車にやってきた時、日本社会には、これまでの彼の厳しい企業再生手法を半ば恐れ、彼を「冷徹なコスト・カッター」であるとする見方もありました。確かに、彼はNRPにおいても、不採算工場の閉鎖や系列会社との慣習的な取り引きの中止など、ドラスティックな改革をためらうことなく次々に断行していきました。しかし、これらの判断は、責任を持って困難を解決するために下されたものなのです。
 ビジネスにおいて、困難は不可避のものです。困難に遭遇した際、経営者であれば、「リスクを恐れぬチャレンジ精神」と「経営者としての強い責任意識」に集約されるゴーン氏のこの言葉を思い浮かべ、困難に立ち向かわなくてはならないといえるでしょう。
【参考文献】
カルロス・ゴーン経営を語る」(カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス(著)、高野優(訳)、日本経済新聞社、2005年12月)
「ルネッサンス 再生への挑戦」(カルロス・ゴーン(著)、中川治子(訳)、ダイヤモンド社、2001年1月)
カルロス・ゴーンは日産をいかにして変えたか」(財部誠一、PHP研究所、2002年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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