経営ヒント格言 1.信念に基づく決断と実行 29 「商いとは他でもない、ねばりである。ねばりを忘れては儲けることなどできないし、商いそのものが成り 【名言・格言者】山崎峯次郎(ヱスビー食品株式会社創業者)【解説】 山崎峯次郎(やまざきみねじろう)氏は、1903年、埼玉県に生まれました。1920年、上京して業務用ソースを販売する会社に勤めました。その後、カレー粉の調合・販売を志し、1923年、国産初のカレー粉の調合に成功して日賀志屋を設立しました(現ヱスビー食品株式会社)。その後、「インド人もビックリ」のキャッチフレーズで有名な「ベストカレー」、香り豊かな本格的カレーの「ゴールデンカレー」など、さまざまな独創的なカレーを発売し、日本の食文化にカレーを根付かせる上で多大な貢献を果たしました(1974年逝去)。 冒頭の言葉は、「ビジネスは、強い信念を持ち、苦境に立たされても決して諦めないということが重要である」ということを表しています。 山崎氏は、ソースの行商中に初めてカレーライスを口にし、その魅力にすっかりとりつかれました。当時、カレー粉は海外から輸入されたものがほとんどであり、国産カレー粉は、輸入品のカレー粉に増量剤を加えただけのものでした。山崎氏は、「美味しいカレーを多くの人に広めたい」という情熱を抱き、自身で本物の国産カレー粉をつくることを決意しました。 しかし、本物のカレー粉をつくるということは想像を絶する難事でした。当時の日本にカレー粉のつくり方を知る人はおらず、詳しい文献もありませんでした。山崎氏は暗中模索を繰り返し、あるとき、日本の生薬の一つがカレー粉の原料となっていることを発見しました。それ以来、さまざまな種類の生薬を原料として買い込んで粉にし、輸入品のカレー粉を味わいながら、それらの原料を一つずつ調合するという努力を重ねました。このような気の遠くなる試行錯誤の末、1923年、ようやくカレー粉の調合に成功したのです。 このような山崎氏のねばりの裏には、強い信念がありました。それは、創業の精神でもある「美味求真」という信念です。戦後、市場には油でカレー粉を固めた粗悪な即席カレーが数多く登場しました。社内からも、他社に後れをとらないよう、即席カレーへの進出の提案がありました。しかし、山崎氏は「いいものができるようになるまでは、絶対にやってはいけない」として、頑として即席カレーの製造を認めませんでした。 山崎氏は、次のように述べています。「人々をほんとに豊かにし、楽しくし、健やかにする味のすべてを生み出し、提供するのが私の務めである」 強いねばりには、強い信念という支柱が必要です。確固たる信念に裏打ちされたねばりの精神こそ、信頼あるビジネスにおいて不可欠なものだといえるでしょう。【参考文献】「創業者は何を教えたか 200人の苛烈な体験に学ぶ、不屈の企業家精神」(梶原一明(他)、経済界、1987年1月)「スパイス・ロード 香辛料の冒険者たち」(山崎峯次郎、講談社、1975年1月) (c)日経BP社 2010 日経BP社「経営のヒントとなる言葉50」JLogosID : 8516408