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「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」


【名言・格言者】
福澤諭吉(慶應義塾創設者)

【解説】
 福澤諭吉(ふくざわゆきち)氏は、1835年、大阪(現大阪府)に生まれました。蘭学者である緒方洪庵の適塾に学んだ後、1858年に江戸で蘭学塾を開きます(1868年、塾名を慶應義塾と定める)。1860年、江戸幕府による遣米使節団の随員として軍艦・咸臨丸で渡米し、帰国後は「西洋事情」などの著作を通じて西洋文明の啓蒙活動に取り組みました。また、慶應義塾に大学部を設けて文学・理財・法律の三科を置くなど、教育分野の発展に大いに尽力しました(1901年逝去)。
 冒頭の言葉は、「絶えず自主的な努力を続けることこそ、前進につながるものである」ということを表しています。
 福澤氏は渡米によって西洋文明に触れて大きな衝撃を受け、その後、数度の海外視察により病院や銀行、議会制度などについての見聞を広めました。そして、近代国家としての日本の創造において西洋文明の導入が不可欠だと確信し、帰国後は西洋文明を広く人々に知らしめるべく、啓蒙活動に情熱を傾けました。攘夷の気運が高まっていた当時、西洋文明の重要性を説くことは、命を狙われかねない危険な行為でした。しかし、福澤氏は臆することなく、自塾での洋学の講義に力を注ぎ、学問が一日もおろそかにできないことを身をもって塾生に示しました。
 福澤氏が折りにふれて使い、また今日の慶應義塾の理念にも掲げられている言葉に「独立自尊」があります。これは、「何事においても確固たる自主性を持つ」ということを表しています。
 明治維新により、日本は文明開化に取り組み、近代国家への道を歩み始めることとなりました。しかし、学校や工業など、文明開化の「形」は出来上がったものの、民衆は明治新政府にただ従うのみであり、文明にとって最も重要である独立の精神は日に日に衰えてしまいました。冒頭の言葉は、このような独立自尊の欠乏に対する警鐘を鳴らすものとして語られたものです。福澤氏は次のように述べています。

「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人にへつらうものなり」

 自主性に欠ける人間は他人を頼り、結局は何事もなすことができません。福澤氏は、「進みもせず、退きもせず停滞していることは、人としてあるべき姿ではない」としています。独立自尊を貫くためには、絶えざる努力によって自身を成長させ続けることが必要なのです。
 独立自尊の精神は、経営者にとっても欠くことのできないものです。常に先取の精神を忘れずに、自主性を持って仕事に取り組むことこそ、経営における独立自尊の実現につながるといえるでしょう。
【参考文献】
「学問のすゝめ」(福沢諭吉、岩波書店、1978年1月)
「福翁自伝」(福沢諭吉(著)、富田正文(校訂)、岩波書店、1978年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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