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「『小さな異常』に気がついて対処することが『大きな異常』を発生させない唯一の方策である。」


【名言・格言者】
遠藤功(株式会社ローランド・ベルガー会長)

【解説】
 遠藤功(えんどういさお)氏は、1956年、東京都に生まれました。1979年に早稲田大学を卒業後、三菱電機に入社しました。その後、株式会社ボストン・コンサルティング・グループ、アンダーセンコンサルティング株式会社(現アクセンチュア株式会社)などを経て、2000年に株式会社ローランド・ベルガーの代表取締役に就任しました。現在は同社の会長として戦略策定および実行支援業務に携わっています。
 冒頭の言葉は、「企業において、さまざまな事象を常に『見える』状態にしておくことが重要である」ということを表しています。
 近年、多くの企業・官公庁・医療機関などにおいて重大な事故やトラブルなどが発生しています。その発生原因は複雑であり、それぞれに個々の事由がありますが、一つの共通した問題が挙げられます。それは、「企業において、現場の異常や問題は『見えて』いたか」ということです。
 企業において、異常や問題は常に発生しています。これらの異常や問題は、一般的には無意識のうちに看過されて、あるいは意図的に隠ぺいされて、表面からは見えなくなっているケースが多いのが現実です。しかし、異常や問題が見えなければ、対処する方策を立てることはできません。その結果、異常や問題は、企業内においてそのまま病巣を広げ、最後には重大な事故やトラブルとなって表面化します。
 遠藤氏は、異常や問題などを実際に見えるようにすることを「見える化」という言葉を使って説明しています。この「見える化」こそが、重大な事故やトラブルを防ぐ上で最も重要なのです。
 例えば、ある住宅会社では、需要予測の失敗から大量の不良在庫を抱えていました。役員の多くは、「現状に即した生産体制を確立することが重要である」という認識は持っていたものの、「いずれ在庫はさばける」といった甘い考えに流され、具体的な対処を行っていませんでした。そこで、同社の社長は、各営業所などに滞留していた不良在庫を全て工場に戻し、不良在庫を敷地に積み上げるよう指示しました。不良在庫という「異常」は、積み上げられた商品という形で「見える化」され、役員や社員はこの不良在庫の山を目の前にして、ようやく生産過剰の恐ろしさをはっきりと認識したのです。
 遠藤氏は次のように述べています。

「企業は不完全な『見る』能力しか持っていない人間の集合体だ。そのため、漫然と放っておいたら、きちんと『見る』ことはできない」

 人間はさまざまなものを見ていますが、実際はその多くにおいて意識して「見て」はいません。だからこそ、「見える」ようにしようとする「意思と知恵」が必要となるのです。企業の「見える化」を図り、小さな異常や問題を「見える」ようにし、そしてそれらを意識的に「見る」ことこそ、重大な事故やトラブルを未然に防ぐための最も重要な、そしてただ一つの方策だといえるでしょう。
【参考文献】
「見える化 強い企業をつくる『見える』仕組み」(遠藤功、東洋経済新報社、2005年1月)
「企業経営入門」(遠藤功、日本経済新聞社、2005年4月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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