経営ヒント格言 3.失敗を恐れずに挑戦する勇気 20 「十戦十勝ほど怖ろしいものはない」 【名言・格言者】柳井正(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)【解説】 柳井正(やないただし)氏は、1949年、山口県に生まれました。1971年に早稲田大学を卒業後、ジャスコ株式会社(現イオン株式会社)に入社しました。1972年、同社を退社し、父親が経営する紳士服店に入社し、仕入れ・接客販売・経理など、店舗運営業務に携わりました。その後、米国の大学生協を視察した際に目にした豊富な品ぞろえとセルフサービス方式の販売スタイルにヒントを得て、「低価格のカジュアルウエアをセルフサービスで販売する店舗」を発想し、1984年、広島市に「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」を出店しました。同店は、「販売員がしつこい接客をしない」「開放感がある高い天井と広くて歩きやすい店内通路」など、それまでの衣料品店とは異なるざん新な特徴が話題となりました。その後、店名をユニクロと変えて店舗数を大きく増やし、現在では国内のみならず海外にも積極的に出店しています。 冒頭の言葉は、「ビジネスにおいて、十戦十勝の状態は、失敗(敗北)の経験を生かすことができないため、将来取り返しのつかないほど大きな失敗に直面する可能性が高い」ということを表しています。 柳井氏は、商売の基本を「スピード」と「実行」としています。例えば、新しい事業を始める際は、「なるべく短い助走期間でスタートさせ、そこで発生した失敗を次のステップで修正する」ことを重要視しています。すなわち、失敗するのであれば、できるだけ早く失敗して、その原因を検証し、次に失敗しないためにはどのようにすればよいかを学ぶのです。そこで求められるのは、次の成功につながる「いい失敗をする」ことなのです。 事実、柳井氏も数多くの失敗を経験しています。例えば、1997年、柳井氏はスポーツカジュアルをコンセプトとしたスポクロ、ファミリーカジュアルをコンセプトとしたファミクロという新業態を立ち上げましたが、いずれの業態も売り上げが低迷しました。さらに、「スポクロとファミクロにユニクロの商品を回したため、ユニクロ自体に欠品が生じた」という状況を招いてしまいました。これは、スポクロとファミクロが、ユニクロとの明確な差異化を図ることができなかったことに起因する失敗です。このため、柳井氏は、立ち上げから一年も経たないうちにスポクロとファミクロ事業の撤退を決定しました。 企業にとって唯一の致命的な失敗は「会社がつぶれる」ことです。従って、致命的な失敗でなければ、いくらでも失敗することができるのです。柳井氏は次のように述べています。「いい失敗とは、失敗した原因がはっきり分かっていて、この次はそういう失敗をしないように手を打てれば成功につながるというもの。『失敗の質』が大事だ」 失敗には成功へつながる芽が潜んでいます。たとえ、一勝九敗であっても、その九敗が「いい失敗」であれば、そこから次の一勝を引き出すことができるといえるでしょう。【参考文献】「一勝九敗」(柳井正、新潮社、2003年11月)「仕事力」(朝日新聞社広告局(編著)、朝日新聞社、2005年6月) (c)日経BP社 2010 日経BP社「経営のヒントとなる言葉50」JLogosID : 8516417