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「失敗という授業料を払ったのだから、学べる限りを学び取ることが大事だ」


【名言・格言者】
畑村洋太郎(東京大学名誉教授)

【解説】
 畑村洋太郎(はたむらようたろう)氏は、1941年、東京都に生まれました。1966年に東京大学大学院修士課程を修了後、株式会社日立製作所に入社しました。その後東京大学工学部助手に転じ、1973年には同学部助教授に、1983年には教授に就任しました。2002年には特定非営利活動法人失敗学会を設立し、現在ではさまざまな失敗の原因を徹底的に究明して失敗の分析・分類を行い、失敗を有効に活用するための活動を幅広く展開しています。
 冒頭の言葉は「失敗を非難するのではなく、原因を究明するための貴重な経験として活用することが重要である」ということを表しています。
 失敗とは、「行為の結果が期待とは違う望ましくないものになること」を指します。多くの場合、失敗に際しては、その損害や責任の所在が大きく取り沙汰されます。例えば、巨額の予算を費やしてきたプロジェクトなどが失敗した場合、まず問題となるのは「損害額はどのくらいになるのか」「誰の責任でこのような失敗が起こってしまったのか」ということでしょう。このため、失敗にはマイナスのイメージが伴います。
 畑村氏は、失敗の特性の一つとして「失敗情報は隠れたがる」ということを挙げています。前述の通り、失敗にはマイナスのイメージが伴います。このため、失敗が発生したとき、失敗を引き起こした当事者はどうしても失敗を隠そうとします。
 しかし、このようにして失敗情報が隠されてしまっては、失敗から何も学び取ることができません。畑村氏は次のように述べています。

「いったん『失敗は隠せる』という罠にはまると、小さな失敗の中に兆候を見せる大きな失敗が起こる芽を見過ごすことになる」

 ひとたび「失敗は隠せる」という認識に陥ってしまうと、失敗は表面に出てこなくなります。それらの隠された小さな失敗は、やがては企業の命運を脅かすほどの大きな失敗に結びつく危険性があります。逆に言えば、小さな失敗が発生した時点でその原因を探り、再発および損害の拡大防止に努めるならば、小さな失敗の連鎖を断ち切り、大きな失敗を防ぐことができるのです。
 失敗は、確かに損害をもたらします。しかし、逆説的に考えるならば、そこには「次の大きな失敗を防ぐための要因」という貴重な情報が詰まっているともいえます。
 ひとたび失敗が起きてしまった場合は、それを建設的にとらえ、失敗の要因を学び取ることが重要です。そして、その貴重な情報を活用して次の大きな失敗を防ぐことこそが、失敗の最も有効な活用方法といえるでしょう。
【参考文献】
「『失敗学』事件簿 あの失敗から何を学ぶか」(畑村洋太郎、小学館、2006年4月)
「失敗を生かす仕事術」(畑村洋太郎、講談社、2002年3月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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