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「真夏には冬の仕度を、厳寒に夏の準備を」


【名言・格言者】
本多静六(林学博士)

【解説】
 本多静六(ほんだせいろく)氏は、1866年、埼玉県に生まれました。1890年に東京農科大学を卒業後にドイツへ留学し、1899年、日本初の林学博士の学位を取得しました。1900年、東京帝国大学農科大学(現東京大学農学部)の教授に就任し、約35年間にわたり日本全国のさまざまな公園の設計に携わり、後に「日本の公園の父」と称されるようになりました。また、利殖家としても著名であり、倹約と努力によって一代で巨額の資産を築き上げました(1952年逝去)。
 冒頭の言葉は、「何事においても、先へ先へと物事に備えることが重要である」ということを表しています。
 本多氏は裕福な名主の家に生まれましたが、幼いころに父親が急逝したため、急きょ経済的に苦しい生活を余儀なくされることとなりました。しかし、向学心に燃える本多氏は、農繁期には家の農作業を手伝い、農閑期には上京して書生として住み込み奉公をしながら、寸暇を惜しんで勉学に励みました。
 このような苦学を体験した本多氏は、日々の生活において「自分の仕事は自分で、しかも、できるだけ先へ先へと早めに片付けていく」という信条を持つに至りました。山林関係の仕事は、天候に大きく左右されます。このため、本多氏は天候が良い日には努めて多くの仕事を片付けるよう心掛け、そして天候が悪い日には屋内でもできる事務仕事に取り組みました。また、後に視察・講演などのため、全国各地を飛び回る多忙な生活を送ることとなりますが、その移動の際、乗り物の中でも常に読書や原稿書きをするなど、時間を可能な限り有効活用することに努めました。本多氏は、次のように述べています。

「仕事の大きな手落ちは、あわてて片付けようとする際にのみ起きるようだ」

 今日の仕事を明日へ繰り越すと、明日の仕事は明後日へ繰り越されることとなります。すると、次第に後回しにされた仕事がたまっていきます。このようなときに不意の事故が起こると、身動きがとれなくなってしまいます。「今日の仕事を今日片付けるのは当然のことながら、もしできるのなら、明日の仕事を今日、明後日の仕事を明日にと、手回しよく片付けることが望ましい」と本多氏は言います。余裕をもって先へ先へと片付けた仕事には、いかなる場合にも手落ち(失敗)というものがほとんどないためです。
 現代のビジネスパーソンは多忙であり、仕事を先送りしがちです。しかし、このままではいけません。時間の使い方を見直し、効率的に仕事を進めることで仕事の早回しに取り組みましょう。仕事を先へ先へと手早く片付け、ゆとりをもって新しい仕事に取り組む姿勢こそ、変化のスピードが速い現代を生き抜く経営者にとって必要なものだといえるでしょう。
【参考文献】
「私の生活流儀」(本多静六、実業之日本社、2005年7月)
「人生計画の立て方」(本多静六(著)、本多健一(監修)、実業之日本社、2005年7月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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