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「『昨日の顧客』と『明日の顧客』は同じではない」


【名言・格言者】
鈴木敏文(株式会社セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長最高経営責任者)

【解説】
 鈴木敏文(すずきとしふみ)氏は、1932年、長野県に生まれました。1956年に中央大学を卒業後、書籍取次店の東京出版販売株式会社(現株式会社トーハン)に入社しました。1963年、株式会社伊藤ヨーカ堂(現株式会社イトーヨーカ堂)に入社し、1973年、当時米国で広がりつつあったコンビニエンスストアに着目してセブン-イレブン・ジャパン(以下「セブン-イレブン・ジャパン」)を設立しました。その後、1978年には同社の社長に、1992年には株式会社イトーヨーカ堂社長およびセブン-イレブン・ジャパン会長に就任しました。
 冒頭の言葉は、「過去の存在である『昨日の顧客』に目を向けるのではなく、未来の存在である『明日の顧客』が何を求めているのかについて考えることが重要である」ということを表しています。
 一般的に、ビジネスにおいては、過去の成功事例が踏襲される傾向にあります。例えば、小売業の場合、過去に多く売れた商品を「売れ筋」商品として、常に店頭に多くそろえようとするのが通常です。
 もちろん、「売れ筋」商品は、売れるだけの強い訴求力を持っています。しかし、顧客のし好の多様化が進み、あらゆる事象の変化の速度と激しさが増している現在、過去の「売れ筋」商品が、未来においても「売れ筋」たり得るとは限りません。過去の「売れ筋」商品が、ある日突然売れなくなってしまうということも起こり得ます。そして、その時に顧客が求めている「次の売れ筋」商品がなかったら、やがて顧客の足はその店舗から遠のいてしまうことでしょう。
 「売れ筋」商品をそろえることは、「昨日の顧客」を相手としているビジネスだといえます。これに対して、「次の売れ筋」商品を探ることは、「明日の顧客」を獲得するビジネスだといえます。
 鈴木氏は、社員が「顧客のために」という言葉を使用することを禁じ、「顧客の立場で」という言葉を用いるよう指導しています。なぜなら、「顧客のために」という言葉は、往々にして「顧客とはこうあるべきである」という、売り手の先入観に根ざしている場合が多いからです。一方、「顧客の立場で」という言葉は、実際の買い手である顧客の視点に基づくものです。「顧客のために」と「顧客の立場で」という言葉は、一見似ているようで、その実まったく異なるものです。そして、「明日の顧客」のニーズを探る上では、「顧客のために」ではなく「顧客の立場で」考えることが極めて重要なのです。
 鈴木氏は、商品ごとに「売れ筋」とそうでないものをタイムリーに把握し、発注精度を高める「単品管理」制度を確立しました。このような取り組みは、未来、すなわち「明日の顧客」のニーズを満たすために作り出されたものです。変化の速度と激しさが増している現在、「明日の顧客」を獲得することこそが、あらゆるビジネスにおいて最も重要な課題となるといえるでしょう。
【参考文献】
「セブン-イレブンの『16歳からの経営学』 鈴木敏文が教える『ほんとう』の仕事」(勝見明、宝島社、2005年11月)
鈴木敏文 考える原則」(鈴木敏文(述)、緒方知行(編著)、日本経済新聞社、2005年6月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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