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「成功は窮苦の間に芽生えており、失敗は得意満面の間に宿る」


【名言・格言者】
越後正一(元伊藤忠商事株式会社社長)

【解説】
 越後正一(えちごしょういち)氏は、1901年、滋賀県に生まれました。1925年に神戸高等商業学校(現神戸大学)を卒業後、伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠商事」)に入社しました。入社後は綿糸売買で頭角を現し、1955年には伊藤忠商事の常務取締役に就任しました。その後、1959年には取締役副社長に就任し、1960年には取締役社長に就任しました。社長就任後は海外部門と非繊維部門の拡大に努め、繊維部門が主であった伊藤忠商事を、世界的な総合商社へと大きく育て上げました(1991年逝去)。
 冒頭の言葉は、「その時々の状況にまどわされず、常に先を見通し、それに応じた対策をとることが重要である」ということを表しています。
 1920年代後半、越後氏が綿花の販売業務に携わっていた当時、昭和金融恐慌や世界恐慌などの影響により、経済を取り巻く環境は大きな波乱の中にありました。このため、経済情勢に敏感な商品である綿糸の相場は日々めまぐるしく変化していました。こうした中、越後氏は市場の動向に遅れないよう、常に迅速な情報収集を行い、市場を先読みしながら相場に向き合っていました。この貴重な経験が、越後氏のビジネスにおける先見性を磨くこととなりました。
 越後氏は、先を見通すことの重要性について、次のように述べています。

「考え方としては、やる、やらないは別として、長い将来を考えてこれで果たしていいかどうか、疑問を持ち続けていただくことが非常に大事だと思います」

 伊藤忠商事が、総合商社化に向けて順調な海外進出を行っていた矢先の1971年、米国は突如、ドルの金交換停止などを柱とするドル防衛強化策を発表しました。これにより、日本は深刻な景気後退に見舞われる危険にさらされました。
 しかし、越後氏はその1年前からドルの実勢を見通し、できる限りの対策を講じていました。とはいえ、国際通貨不安が募る中、「会社はどうなるのか」という不安は高まるばかりでした。このとき、越後氏は冒頭の言葉を思い、「今こそ窮苦のときであり、その裏には成功が輝いている」と、全社に檄を飛ばしました。こうして、越後氏は、得意満面の間に宿っていた失敗を見つけ出して対策を講じ、また、窮苦の間に芽生えていた成功を信じて耐え抜き、この大きな危機を乗り切ることができたのです。
 近年、ビジネスのスピードは加速する一方であり、それを取り巻く環境も目まぐるしく動いています。このような時代にこそ、経営者は、いかなるときも先を見越した対策をとることが求められるのです。
【参考文献】
「経済人の名言 勇気と知恵の人生訓 上」(堺屋太一(監修)、日本経済新聞社(編)、日本経済新聞社、2004年12月)
「私の履歴書 経済人16」(日高輝、田口連三、越後正一、樫山純三、大槻文平、小林節太郎、日本経済新聞社、1981年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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