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「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」


【名言・格言者】
稲盛和夫(京セラ株式会社創業者)

【解説】
 稲盛和夫(いなもりかずお)氏は、1932年、鹿児島県に生まれました。1955年に鹿児島大学を卒業後、京都府の碍子製造会社に入社しました。1959年、京都セラミツク株式会社を創業し、セラミックス(特殊磁器)製造事業を開始します。1982年、京都セラミツク株式会社は京セラ株式会社に社名変更を行い、現在では光学機器事業や通信事業も手がける、日本を代表する企業にまで成長しています。
 冒頭の言葉は、「前例のないことに挑戦する際は、細心の計画と大胆な実行が重要である」ということを表しています。
 稲盛氏は、企業経営において「思う」ことの重要性を説いています。新しい事業展開や新製品開発などでは、理屈だけを考えると「実現するのは無理だ」と判断してしまうことが多くあります。しかし、従来の常識に基づいた判断に従ってばかりいると挑戦に対して消極的になり、実現できるものも実現できなくなってしまいます。不可能を可能とするためには、まず強烈に「実現した状態」を思う(イメージする)ことが重要です。常に強烈に「実現した状態」を思うことによって実現のためのプロセスを頭の中で何度もシミュレーションし、試行錯誤を繰り返すうちに、やがて成功への明確な道筋が浮かび上がってくるのです。
 稲盛氏は、成功のイメージが白黒ではなくカラーで見えるくらいでなくてはならないと述べています。

「そういう完成形がくっきりと見えるようになるまで、事前に物事を強く思い、深く考え、真剣に取り組まなくては、創造的な仕事や人生での成功はおぼつかないということです」

 前例のないことに挑戦する際、まず自身の中でその「実現した状態」がカラーで見えるほどに強く「思う」ことが求められるのです。そして、実現が明確にイメージできるようであれば、悲観的な意見を排して大胆に構想しなくてはなりません。
 しかし、構想を実現に移すための計画を立てる段階では、考え方を全く逆にする必要があります。計画は、必ず実行され、しかも成功に結びつくものでなくてはなりません。このため、悲観論に基づき、想定されるリスクをすべて挙げ、細心の注意を払って徹底的に計画を練らなくてはなりません。そして、練りに練った計画を実行する際には、再度楽観的な視点を取り戻し、ためらうことなく思い切って計画を実行するのです。
 ある製品を開発する際、稲盛氏が部下に下した指示に「手の切れるようなものをつくれ」という言葉があります。「手の切れるようなもの」とは、完璧で、触れたら手が切れてしまうような、「これ以上のものはない」という完全無欠のものを表します。まず完全たる実現のイメージを強く思い、そしてそのイメージを基にじっくりと綿密に実現のための計画を煮詰め、最後はその計画を一気呵成に実行する。この一連のプロセスこそが、夢や願望を実現させ、不可能を可能とするために最も重要だといえるでしょう。
【参考文献】
「生き方 人間として一番大切なこと」(稲盛和夫、サンマーク出版、2004年8月)
「私の履歴書 経済人36」(椎名武雄、樋口廣太郎、稲盛和夫飯田亮安藤百福、日本経済新聞社、2004年6月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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