経営ヒント格言 5.ビジネスに向き合う姿勢 28 「対象に対して五回の『なぜ』を繰り返せ」 【名言・格言者】大野耐一(元トヨタ自動車工業株式会社副社長)【解説】 大野耐一(おおのたいいち)氏は、1912年、中国大連に生まれました。1932年に名古屋高等工業学校(現名古屋大学)を卒業後、豊田紡織株式会社(現トヨタ紡織株式会社)に入社し、1943年にトヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車株式会社、以下「トヨタ自動車」)に転籍しました。その後、同社で機械工場長などを経て生産管理の研究に携わり、1970年には専務取締役に、1975年には副社長に就任しました。大野氏は、豊田佐吉氏や豊田喜一郎氏といった、トヨタ自動車の先達が提唱していた「自働化」「ジャスト・イン・タイム」という考えを「トヨタ生産方式」として体系化し、トヨタ自動車の生産性向上に大きく寄与しました(1990年逝去)。 「トヨタ生産方式」は、その基本概念である「andon(あんどん)」「kaizen(改善)」「kanban(かんばん)」などの言葉によって、今日では日本製造業における優れたシステムの代表として世界に広く知られています。 冒頭の言葉は「問題の解決においては、その問題を深く掘り下げて根本をとらえることが重要である」ということを表しています。 ものづくりの現場では、日々さまざまな問題が発生します。問題が発生した場合、その原因を究明し、以後同じ問題が発生しないように対処しなくてはなりません。しかし、多くの場合、問題の発生にはさまざまな要素が重なっており、その根本的な要因を探し出すことは困難です。だからこそ、「なぜ」を五回繰り返すことで要因を探し出すのです。 大野氏は「機械が止まった」という問題を例に挙げて、「なぜ」を問うことの重要性を次のように説明しています。・なぜ機械は止まったのか 「オーバーロードがかかって、ヒューズがきれたからだ」・なぜオーバーロードがかかったのか 「軸受け部の潤滑が十分でないからだ」・なぜ十分に潤滑しないのか 「潤滑ポンプが十分くみ上げていないからだ」・なぜ十分くみ上げないのか 「ポンプの軸が磨耗してガタガタになっているからだ」・なぜ磨耗したのか 「ストレーナー(ろ過器)がついていないので、切粉が入ったからだ」 このように、「なぜ」を繰り返すことで、「ストレーナーを取り付ける」という的確かつ根本的な解決策を発見することができるのです。 大野氏は次のように述べています。「五回の『なぜ』を自問自答することによって、ものごとの因果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる」 大野氏は、ものごとの裏にひそむ本当の原因を、「真因(原因のさらに向こう側にあるもの)」という言葉で表しています。 前掲の例において、もし「なぜ」を繰り返すことがなかったら、解決策は「ヒューズを取り換える」「ポンプの軸を取り換える」という表層的なものにとどまってしまったかもしれません。このような解決策は対症療法にすぎず、その結果、いつかまた同様の問題が発生することが危惧されます。このように、問題が起きた場合、「なぜ」の問い方が不十分であると「真因」を突き止めることができず、対策も不十分なものになってしまうのです。 トヨタには、「全社員が常に問題意識を持ち、業務改善の工夫を行う」という社風があります。一見するとなんら問題のないような事象であっても、その奥には将来問題を発生させる「真因」となるものがひそんでいる可能性があります。それ故、「なぜ」を繰り返す必要があるのです。現代の複雑なビジネス上の問題に対しても、常に「なぜ」を繰り返して根本を問う姿勢こそが、的確かつ根本的な解決策を発見する上で最も重要だといえるでしょう。【参考文献】「トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして」(大野耐一、ダイヤモンド社、1978年5月)「大野耐一工人たちの武士道 トヨタ・システムを築いた精神」(若山滋、日本経済新聞社、2005年1月) (c)日経BP社 2010 日経BP社「経営のヒントとなる言葉50」JLogosID : 8516433