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「最も単純なやり方が最も優れている場合も多い。そして単純なやり方であってもそれを導入するには時間


【名言・格言者】
マイケル・デル(デル会長)

【解説】
 マイケル・デル氏は、1965年、米国に生まれました。テキサス大学在学中より自作のパソコンを販売するビジネスに着手し、1984年にはデルの前身となるPC's Limited を設立しました。当時のパソコンメーカーは、大量生産した商品を卸・小売店を通じて販売していましたが、そのような中、デル氏は、個々の顧客の要望に応じたカスタムメイドのパソコンを受注生産し、顧客に直接販売する「デル・ダイレクト・モデル」(以下「ダイレクト・モデル」)を確立し、パソコン業界において革命を起こしました。
 冒頭の言葉は、「誰もが理解しやすいシンプルな戦略を通じて社員の進むべき道を明確に示し、社員一丸となって、それに粘り強く取り組むことの重要性」を表しています。
 デルの競争力の源泉であるダイレクト・モデルの基本コンセプトは「在庫を敵視せよ」「常に顧客の声に耳を傾けろ」「間接的な販売はしない」という、言葉にすると非常に“単純”な3つの至上命題にあります。また、この3つの至上命題を具現化したダイレクト・モデル自体も、一見すると「消費者への直販」という極めて“単純”なシステムにみえます。
 ダイレクト・モデルの真の強みは「進化するシステム」という点にあります。ダイレクト・モデルは一見すると単純です。とはいえ、単純なモデルでも、その改善に取り組み続けることによって、デルはダイレクト・モデルを常に進化させているのです。例えば、1990年代後半、同社の商品在庫日数は8日程度でしたが、「在庫を敵視せよ」のコンセプトに従って進化を続けた結果、2005年には4日にまで削減されています。
 こうしたデルの姿勢を生み出す大きなきっかけとなったのは、小売チャネルからの撤退でした。かつては、デルにも小売チャネルでパソコンの販売を行っていた時期がありました。しかし、1994年、デルは順調に成長していた小売チャネルからの撤退を発表しました。この原因は、小売チャネルでの販売の収益率が低かったことにあります。しかし、デル氏は、撤退がもたらした効果について、次のように述べています。

「真のメリットは、撤退によって、社員が100%ダイレクト・モデルに集中せざるを得なくなったという点である。こういう意思統一は、強い団結力を生む」

 小売チャネルからの撤退という選択は、「ダイレクト・モデルこそが自社の最大の強みである」ということを改めて全社員に認識させました。そして、同時に「自社が成長するための唯一の手段は、ダイレクト・モデルをさらに『進化』させ続けることである」という、デルが進むべき道を全社員に明確に示しました。すなわち、「進化するダイレクト・モデル」を生み出す原動力となっているのです。
 デル氏の言葉は、「単純な、分かりやすい戦略を常に企業全体に認識させることが、企業価値をより一層高めることにつながる」ということを端的に表しているといえるでしょう。
【参考文献】
「デルの革命 『ダイレクト』戦略で産業を変える」(マイケル・デル(著)、國領二郎(監訳)、吉川明希(訳)、日本経済新聞社、2000年11月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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