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「戦略なんて限られた資源をどう割り振りするか、それだけのことだ」


【名言・格言者】
ジャック・ウェルチ(元GE会長兼CEO)

【解説】
 ジャック・ウェルチ氏は、1935年、米国に生まれました。マサチューセッツ州立大学卒業後、1960年にGeneral Electric社(以下「GE社」)に入社しました。その後、1968年にはゼネラルマネージャーに、1981年には会長兼最高経営責任者に就任しました。ウェルチ氏は、その類まれなる経営手腕によって、2000年までにGE社を時価総額世界1位の企業へと成長させました。2001年、同社の会長兼CEO(最高経営責任者)を退任し、現在はジャック・ウェルチ有限責任会社の代表として、世界中で講演活動などを行っています。
 冒頭の言葉は、「戦略の本質は、自社が最も優位に立てる分野に経営資源を集中させることだ」ということを表しています。
 1970年代、日本の家電メーカーは、米国におけるテレビや室内用エアコンなどの分野に進出し、次々と技術革新と値下げを打ち出しました。GE社も数々の対抗策を講じましたが、GE社の商品の品質・コスト・サービスは日本企業に比べて劣勢であり、このため厳しい状況に追い込まれていました。
 一方、同時期にウェルチ氏はGEグループの金融事業を担う企業であるGEキャピタルを担当していましたが、そこで「GE社の財務内容をもってすれば、金融サービスで利益を上げることがいかに簡単であるか」ということを知りました。金融サービスにおいて工場は不要であり、海外企業との競争もなく、GE社は確実に大きな利益を上げることが可能であることに気づいたのです。
 1981年、CEOに就任したウェルチ氏は、自社にとって勝ち目がなさそうな事業からはできるだけ距離を置き、自社が優位に立って勝てると見込める事業に集中することを決意します。この戦略により、GE社はテレビ・小型家電製品・エアコンなどの量産事業から撤退する一方でGEキャピタルに多額の投資を行い、発電機・医療機器・航空機エンジンなどの高度な技術を要する事業に注力しました。このウェルチ氏の戦略は、大企業病に陥っていたGE社を、スリムかつ収益性の高い組織へと変身させることに成功しました。
 ウェルチ氏の有名な言葉に「市場での競争は、戦うことが目的ではない。戦う以上、勝つことが目的である。勝てなければ、撤退する」という一節がありますが、これは冒頭の言葉とも密接な関係を持っています。ウェルチ氏は、次のように述べています。

「すべての人にすべての物を、なんて無理だ。たとえいかに大きな会社であろうと、どんなに大きな財布を持っていようと」

 企業が投下することができる経営資源には限りがあります。その貴重な経営資源を最も有効に活用するためには、「選択と集中」が必要です。このため、勝つことが見込めない競争からは撤退し、勝てる分野で競争をしなくてはならないのです。ウェルチ氏の言葉は、戦略の本質を最もシンプルかつ的確に表したものだといえるでしょう。
【参考文献】
「ウィニング 勝利の経営」(ジャック・ウェルチ、スージー・ウェルチ(著)、斎藤聖美(訳)、日本経済新聞社、2005年9月)
「わが経営 上下巻」(ジャック・ウェルチ、ジョン・A・バーン(著)、宮本喜一(訳)、日本経済新聞社、2001年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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