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「トップの決断、そして、その成功の積み重ねが、社員との間に信頼感を生む」


【名言・格言者】
佐伯勇(元近畿日本鉄道株式会社社長)

【解説】
 佐伯勇(さえきいさむ)氏は、1903年、愛媛県に生まれました。東京帝国大学(現東京大学)を卒業後、1927年に大阪電気軌道株式会社(現近畿日本鉄道株式会社。以下「近鉄」)に入社しました。入社後は社長秘書などを経て、1947年に専務取締役に、1951年に社長に就任しました。20年以上の長きにわたって同社の社長を務め、合併や路線拡張により近鉄を私鉄最大手へと育て上げました。また、「2階建て車両の導入」「新生駒トンネル・新青山トンネル着工による輸送力増強」などの大事業を進めると同時に、デパート・ホテル・旅行業にも注力するなど多角的な経営を行い、「近鉄中興の祖」と呼ばれました(1989年逝去)。
 冒頭の言葉は、「経営者の決断が繰り返し成功に結びつかない限り、会社と社員の信頼関係は生まれない」ということを表しています。
 佐伯氏は、「経営とは、決断である」という信念を持っていました。経営者は調査や研究、社内の衆知を集めても結論が出ない問題を、自分一人の責任で決断しなくてはなりません。物事の決断に関して、佐伯氏は常日ごろより次のように述べていました。

「独裁はするが、独断はしない」

 独裁とは、自分一人の判断で物事を決めることをいいます。一方、独断とは、他人の考えを聞かずに、自分一人の考えだけで物事を決めることをいいます。この言葉の通り、佐伯氏は強い決断力を持ちつつも、他人の意見に耳を傾けることを惜しみませんでした。
 1959年、伊勢湾台風によって近鉄名古屋線が冠水などの被害を受けた際、佐伯氏は、復旧工事と同時に、かねてより計画していた線路ゲージ拡幅工事を実行することを提案しました。しかし、近鉄自体が大きな被害を受けた非常時であるため、重役陣は反対しました。そこで、佐伯氏は、専門家の意見を十分に聞き、社内からさまざまな実行案を聴取し、その一つひとつについて仔細に検討を重ねました。そして、社内外に対して線路ゲージ拡幅工事の重要性を説き、実行へ向けた機運が高まって機が熟すのを見計らい、実行を決断しました。事前に合理化した工法について十分に検討されていたため、決断後の工事は順調に進み、近鉄はわずか9日間という短期間で不通区間の復旧工事、および名古屋線80キロメートルの拡幅工事を成し遂げることができました。
 佐伯氏は、かねてから会社を釣鐘にたとえてきました。釣鐘は、どこを叩いても同じ音色がします。会社も同様で、社長に会っても駅長に会っても、購買の主任に会っても、全て答えが一つであることが重要だとしています。経営者の決断とそれによって達成される成功の積み重ねが、会社と社員との信頼を強固なものにし、会社が結束し一つになることで、まさに佐伯氏のいう、釣鐘のような強固な会社がつくり上げられるのです。
【参考文献】
「名言大語録 生きる財産となる」(今泉正顕、三笠書房、2002年12月)
「運をつかむ 事業と人生と」(佐伯勇、実業之日本社、1980年1月)
「経営の風土学 佐伯勇の生涯」(神崎宣武、河出書房新社、1992年1月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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