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「カンや理屈での判断は後にまわして、まず身体を動かして事実を探る」


【名言・格言者】
三枝匡(株式会社ミスミグループ本社代表取締役会長・CEO)

【解説】
 三枝匡(さえぐさただし)氏は、1944年、愛媛県に生まれました。1967年に一橋大学を卒業後、三井石油化学株式会社(現三井化学株式会社)、株式会社ボストン・コンサルティング・グループを経て、1986年に株式会社三枝匡事務所を設立しました。以降はさまざまな企業経営に参画して新事業展開や赤字事業再建に尽力し、2001年には株式会社ミスミ取締役に就任し、2002年に同社代表取締役社長・CEO(最高経営責任者)に就任しました(2008年より代表取締役会長・CEO)。
 冒頭の言葉は、「判断に必要な情報は、経営者自らが積極的に集めなくてはならない」ということを表しています。
 欧米企業と比較した場合、一般的に日本企業の経営者のリーダーシップは弱いといわれています。これは、かねてより日本企業に多くみられる「リーダーとは、部下にすべてを任せるものだ」というリーダーの理想像によるものです。確かに、安定期にある企業においては、リーダーである経営者の権限を部下に大幅に委譲しても、会社の運営には支障がありません。
 ところが、そういう状況が続くと、経営者の役割は次第に形骸化していくこととなります。そうなってしまった企業は、いざ経営を取り巻く環境に重大な変化が起こっても、対応することができなくなります。
 三枝氏は、リーダーとは「物事を決めることのできる人」だと述べています。リーダーは、企業が直面している課題を的確に把握し、積極的に指揮に当たらなくてはなりません。そのためには、経営者自らが動き、正確な情報を収集する必要があります。
 経営者が判断に迷う際、その決断が本当に難しい内容であることよりも、実は十分な情報がそろっていないために、問題の本質が見えていないことが多いものです。そのような際に、「カン」に頼って従来の経験から答えを導き出そうとしたり、足りない情報を理論で補おうとしたりしても、問題の解決にはつながらないでしょう。最も重要なのは、経営者自身が自らの足で動き、足りない情報を得ることなのです。
 判断に必要な情報の収集に関して、三枝氏は、次のように述べています。

「不振の原因探しは社長が自分から社員に近づいていって調べる」

 このように、経営者自身が積極的に情報収集に努める姿勢が重要なのです。
 三枝氏は「問題が発生したとき、社内の当事者同士が対峙して正直に語り合うガッツを持たないと、その組織はやがて政治力学ばかりに支配される」と述べています。そしてこれは、経営者と社員の間においても当てはまる企業の原則です。必要な情報収集のために体を動かすことをいとわない積極性こそ、経営者の正確な判断をサポートするものだといえるでしょう。
【参考文献】
「経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ」(三枝匡、日本経済新聞社、2003年3月)
「『日本の経営』を創る 社員を熱くする戦略と組織」(三枝匡、伊丹敬之、日本経済新聞社、2008年11月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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