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「意思決定をするときには、いますでにある選択肢を狭めてくれる情報だけが役立つのだ」


【名言・格言者】
内田和成(株式会社ボストン・コンサルティング・グループ元日本代表)

【解説】
 内田和成(うちだかずなり)氏は、1951年に生まれました。1974年、東京大学を卒業後、日本航空株式会社に入社しました。1985年、株式会社ボストン・コンサルティング・グループに入社し、2000年6月から2004年12月まで日本代表を務めました。現在(2010年1月現在)は、同社のシニア・ヴァイス・プレジデントを務めています。
 冒頭の言葉は、「多すぎる情報は、意思決定において不要である」ということを表しています。
 ビジネスにおける情報の重要性については、異論をはさむ余地はないといえるでしょう。しかし、IT化が進展した現代、ビジネスにおける情報の種類および量は急激に増え、その結果、ビジネスパーソンは、ともすると膨大な情報におぼれてしまいがちなのも事実です。これでは情報の取捨選択に時間をとられるあまり、肝心の意思決定が遅くなってしまいます。
 そこで、内田氏は、このような情報の洪水からビジネスパーソンを救う思考法として「仮説思考」を提唱しています。コンサルティング業界において、仮説という言葉は、「まだ検証はしていないが、最も答えに近いと思われる答え」という意味で日常的に使用されています。具体的には、仮説思考とは「最初に仮説(最も答えに近いと思われる答え)を立て、その後、立てた仮説を検証する」ということを表しています。
 例えば、業績不振にある企業が経営の立て直しを図る際、よくみられるケースとして、「業績不振の原因となり得るすべての問題をリストアップして網羅し、その一つ一つを細かく分析してそれぞれの問題を解決しようとする」という問題解決のアプローチがあります。このようなアプローチは非常に多くの時間を必要とし、最悪の場合、問題解決のための意思決定を行うには時間が足りずに「時間切れ」となってしまうこともあり得ます。
 これに対して、仮説思考は、問題解決においてまず「ストーリーを描く」(仮説を立てる)ことから始めます。前記の例に即していえば「問題は『市場ニーズが変化したことに気づかず、従来の市場ニーズに合わせた商品展開を行っている』であり、解決策は『新しい市場ニーズに合わせた新商品の開発』である」といったストーリーを仮説として立てます。あとはその仮説に基づき、仮説を検証するための情報だけを集めるのです。このため、すべての課題を網羅するケースと比較して、収集・吟味すべき情報の量は圧倒的に少なくて済みます。
 もちろん、最初に立てた仮説が誤っていることがあるかもしれませんが、その場合は、情報を集める段階において、仮説を検証できるだけの情報が集まらないはずです。そのため、早い段階で軌道修正をして再度新しい仮説を立てればよいのです。
 しかし、当然、誰もが最初から精度の高い仮説を立てることができるわけではありません。内田氏は、仮説思考を磨く方法の一例として「なぜを繰り返す」ことを挙げ、次のように述べています。

「BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)ではこの考え方が徹底していて、なぜを最低5回は繰り返す。これを日常的に行うことによって、仮説思考力も磨かれていく」

 直面している問題に対して「なぜそのような問題が発生しているのか」を問い、さらにそこから得られた答えにも「なぜそのような問題が発生しているのか」を問うことを繰り返すことにより、問題の本質を見抜く力が養われます。そうして養われた力が仮説を立てる上で大いに役に立つのです。また、仮説思考は、仮説を立ててそれを検証するプロセスを繰り返すことでも磨かれていきます。ある仮説立てと検証のプロセスから得られた結果は、次の仮説を立てる際にフィードバックされるからです。
 ビジネスにおける意思決定は極めて重要です。特に、経営者が行う意思決定は、時として企業の運命を左右するほど重大です。そのような際、経営者が不要な情報におぼれることなく、迅速かつ正確な意思決定を行えるか否かが、企業の明暗を分けるのです。
【参考文献】
「仮説思考 BCG流問題発見・解決の発想法」(内田和成、東洋経済新報社、2006年3月)




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「経営のヒントとなる言葉50」
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