100辞書・辞典一括検索

JLogos

18

辱しい・恥しい
【はずかしい】


hazukasii

【古代】1)世間、他人などに対しあわせる顔がない。2)きまりがわるい、気おくれして人目をさけたい気持。相手が立派すぎて、こちらがはずかしく思うとき、相手の言動をもハズカシイと表現する。女ことば{おんなことば@女ことば}で、〈はもじい{はもじい}〉(恥しいのハ+文字→ハモジイ)。[中国語]可恥、没臉見人、害羞。disgraceful, be ashamed, bashful.

【語源解説】
動詞、〈恥(は)づ、恥ぢる〉に対する形容詞形、〈はづかし〉。さらに〈はづかしがる/はづかしめる〉などが派生。恥と同じ意が基本。自律心、ときに劣等感による心的発露の語。漢語、羞(シュウ)恥(チ)心(シン)とほぼ同じ気持ち。したがって不名誉と体(タイ)面(メン)、面(メン)子(ツ)、対世間的な点に心をくばることになる。漢字、〈恥(チ)〉は、心がちぢまるといった意。日本語のハジ(ヂ)は未詳。同じようにチヂマル意が基本か。〈きまりがわるい〉は世間一般の規則、キマリにてらして好ましくない点からであろう。

【用例文】
○心(うら)恥(ハヅカシ)/甚{りっしんのめ)(ハヅカシ)(記)○令吾恥辰=吾(あれ)まして波(ハ)豆(ヅ)加(カ)志(シ)牟(ム)流(ル)といひて(紀・私記)○里人の見る目波(ハ)豆(ヅ)可(カ)之(シ)(万)○人きゝはづかしくおぼえ給なりけり(竹取)○花もはづかしく思ひぬべくかうばしくて/子ながらはづかしげにおはする御様/なまめかしうはづかしげにおはすれば/いといたくこそはづかしめられたれ。げに心づきなし〔不愉快だ〕(源氏)○我が後(うしろ)見る人、恥かしく思の知らるれ/艶に恥かしと(紫式部日記)○はづかしきもの色好むをとこの心のうち(枕)○めもみゝもはづかしくおぼゆる/はづかしくかやうになさけなくいふらんことよ(とはず)○打チ解(とけ)タル中ラヒニモ非(あら)ネド〔バ〕、相具セムトモ耻クテ不云デ心ニ思砕ケ乍(なが)ラ(今昔)○よにはづかしく心にくき事に申つゝ(古本説)○辱mini{ハヅカシ、ハヅカシム}/恥辱mini{ハヂハヅ}(名義抄)○世にはづかしき方〔こちらが恥しく思うこと〕もあれどみづから〔本人〕もいみじと思へるけしき(徒然草)○〔遊び女は〕いかばかりはづかしう、かたはらいたくもさぶらふらむ/内(だい)府(ふ)〔平重盛〕が心のうちこそはづかしけれ〔コチラガ恥シクナルホド立派デアル〕(平家)○御言(こと)葉(ば)に恥ぢて今宵の宿(やど)を参らせつるなり/鼓(つづみ)打(う)ちがなくて、終(つゐ)に舞はざりけりと聞えん事こそ恥かしけれ(義経記)○父親の恥を九(きう)泉(せん)苔(こけ)の下にはづかしむる事、うらみつくしがたし/たゞ范(はん)蠡(れい)〔人名〕がいさめこそはづかしけれ(曽我)○京商(あき)人ははづかしきぞ、飯(はん)など尋(じん)常(じやう)にして参(まい)らせよ(お伽草子)○恥(ハヂ)、慙(ハヅル)、羞(同)、辱(同)(運歩色葉集)○女の身として夫が欲しいとははもじうて云はれはせまいぞ/奥様、奥へお出でなされませぇ、お恥しいは御尤もで御座りまする(mini{鷺流・和泉流}狂言)○Fazzucaxij. ハヅカシイ/ハヅカシサ/ハヅカシウ/ハヅカシムルmini{〈文書語〉}/ハヅカシガル(日葡辞書)○慙(ハヅル)、愧(同)、恥(同)/恥(ハヂカハ)敷(シク)(易節用集)○はづかしといやがる馬にかきのせて/洛(らく)〔京都〕の貞(てい)室(しつ)、若(じゃく)輩(はい)のむかし爰に来りし比(ころ)、風雅に辱(はづか)しめられて(芭蕉)○ただにやみなん若衆は其心中はづかしき事ならずや(男色十寸鏡)○忸怩(ハヅル)mini{ハヅカシ}、麼{りっしんら)(同)mini{同}、愧(同)mini{同}、慙(同)、羞(同)/恥(ハヂ)、辱(ハヅカシメラル)、忝(同)/含(ハヂ)嬌(シラフ)、{ひひわかんむりおんな(おんなめい)}{同}、忍咲(同)(書言字考)○恥をいはねば理が聞えず、しりやる通の御(ご)身(しん)代(だい)(近松)○恥(はぢ)、慙(同)mini{はじる}/恥(はづか)敷(しく)(早節用集)○害羞(ハヅカシガル)、羞渋(雑字類編)○辱(ハヂ)ノ上(ウハ)塗(ヌリ)(諺苑)○恥しい夢の咄しは間が抜ける/恥しさ知って女の苦のはじめ(川柳)○恥(はづ)しくもありをかしくもあり、誠(まこと)に赤(せき)面(めん)であった(浮世床)○ハヅカシ(キ) 耻 ハヅカシクオモウ/ハヅカシガル ムスメガハヅカシガリテセキメンスル/ハヅカシメル辱(ヘボン)○昨日(きのふ)までの述(じゅっ)懐(くわい)我れながら恥(はづ)かし/風(ふう)邪(じや)に取みだしたる姿(すがた)はづかしく(樋口一葉)○考へて見ると可(はづ)慙(かし)いです(尾崎紅葉)○最(も)うお可愧(はづかしい)ほど暑いのでございます(泉鏡花)
【補説】
日本文化は〈恥の文化〉という。日本人は恥かしがり屋という。しかし根源的にそうかどうか最近の日本人の行動からはむしろ疑問。なお同義語ともいうべき〈はにかむ{はにかむ}〉はしかし私見では、『伊呂波字類抄』にのみ、漢字〈{おんなき}mini{ハニカム}〉がみえる。おそらく日本製であろう。女性のはずかしがる気持をもって、〈{おんなき}〉と作製したと思う。しかしいずれにしても、ハニカミは近代語で、具体的には徳田秋声『黴』に〈子供は含羞(はにか)んだやうな、嬉しさうな顔を赧(あか)めて〉とか、徳富蘆花『黒い目と茶色の目』に、〈敬二〔人名〕が含羞(はにか)むで尻込した〉などとみえる。〈恥をかみしめる〉といったところか。




東京書籍
「語源海」
JLogosID : 8537962