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源氏文字鎖
【げんじもじ】


『源氏物語』はさまざまな形で享受された。その一つに巻名を七五調のしり取りでつづった文字鎖がある。室町時代後期の歌人で古典学者の三条西実隆(さんじょうにしさねたか)の作とも伝えられる。若菜の上下巻が一括され、巻名だけで本文のない雲隠(くもがくれ)巻が入っている。
源氏のすぐれて優しきははかなく消えし桐壺(きりつぼ)よ
よそにて見えし帚木(ははきぎ)は我から音(ね)に鳴く空蝉(うつせみ)や
休(やす)らふ道の夕顔(ゆふがほ)は若紫(わかむらさき)の色殊(こと)に
匂ふ末摘花(すゑつむはな)の香に錦と見えし紅葉賀(もみぢのが)
風を厭ひし花宴(はなのえん)結びかけたる葵(あふひ)草
賢木(さかき)の枝に置く霜は花散里(はなちるさと)の時鳥(ほととぎす)
須磨(すま)のうらみに沈みにし忍びて通ふ明石(あかし)潟
頼みし跡の澪標(みをつくし)繁る蓬生(よもぎふ)秋深み
水に関屋(せきや)の影映し知らぬ絵合(ゑあはせ)面白や
宿に絶えせぬ松風(まつかぜ)も物憂き空の薄雲(うすぐも)よ
世は朝顔(あさがほ)の花の露ゆかり思ひし少女(をとめ)子が
かけつつ偲ぶ玉鬘(たまかづら)らうたき春の初音(はつね)の日
開(ひら)くる花に舞ふ胡蝶(こてふ)深き蛍(ほたる)の思ひこそ
そのなつかしき常夏(とこなつ)や遣水(やりみづ)涼しき篝火(かがりび)の
野分(のわき)の風に吹き迷ひ光曇らぬ行幸(みゆき)には
花もやつるる藤袴(ふぢばかま)真木(まき)の柱(はしら)は忘れじを
折るる梅枝(うめがえ)は匂ふやと解けにし藤(ふぢ)の裏葉(うらば)かな
何とて摘みし若菜(わかな)ぞも森の柏木(かしはぎ)楢の葉よ
横笛(よこぶえ)の音(ね)は面白や宿の鈴虫(すずむし)声も憂く
暗き夕霧(ゆふぎり)秋深み御法(みのり)を悟りし磯の海人(あま)
幻(まぼろし)の身の程もなく雲隠(くもがく)れにし夜半(よは)の月
聞く名も匂ふ兵部卿(ひゃうぶきゃう)移ろふ紅梅(こうばい)色深し
忍ぶ節なる竹河(たけかは)や八十(やそ)宇治川の橋姫(はしひめ)の
逃れ果てにし椎本(しひがもと)共に結びし総角(あげまき)は
はかなくもゆる早蕨(さわらび)ももとの色なる宿木(やどりぎ)や
宿り尋(と)め来(こ)し東屋(あづまや)の後の名も浮舟(うきふね)のうち
契りあだなる蜻蛉(かげろふ)を己(おの)がすさみの手習(てならひ)は
果てぞゆかしき夢(ゆめ)の浮橋(うきはし)




東京書籍
「全訳古語辞典」
JLogosID : 5113480