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為替相場の決定理論
【かわせそうばのけっていりろん】


為替相場の変動がどのような要因で起きるかを説明した理論は、背景となる経済理論が、部分均衡モデルから一般均衡モデルへ、静学的なモデルから時間の経過を考慮した動学的なモデルへと拡張する中で発展してきた。大きくは以下のように分類される。
 &wc1;古典的3大学説:長期的な為替相場の決定理論としては、両国の物価が一致する点に決まるという購買力平価説が有力。今世紀始めに誕生した古典的な学説だが、シンプルで直感的に理解しやすいのも手伝って、今なお長期的な均衡為替レートを探るうえで広く活用されている。両国のインフレ率の違いにより、均衡水準は時間とともに変化していくが、インフレ率を考慮しないものを絶対的購買力平価、考慮したものを相対的購買力平価という。他に、古典的な為替変動理論としては、2国間の国際貸借で決まるとした国際貸借説、市場の期待や予想に注目した為替心理説がある。これらの考え方はそれぞれ形を変えて後年の理論に受け継がれている。
 &wc2;フロー・アプローチ:購買力平価為替レートの長期的な均衡水準だとしても、現実の為替レートは、さまざまな要因で購買力平価から乖離する。輸出入などの対外取引に伴って生じる通貨需給はその1つ。輸出入のみならず、金銭貸借や証券投資などの資本取引でも通貨の需給は発生するが、こうした国際収支の貸借を最終的にバランスさせるように為替レートが決まるという考え方をフロー・アプローチという。
 &wc3;アセット・アプローチ:フロー・アプローチは主として固定相場時代に優勢だった理論であり、現在は主流ではない。現在では、国際間の資本移動の自由化や、金融技術の進歩に伴って、1日の為替の取引量は莫大な規模に達しており、そのほとんどは貿易取引などの決済とは無関係に行われている。この場合、為替の理論値を考えるうえで重要なのは、金融資産の交換価値としての視点である。こうした点にスポットを当てた理論がアセット・アプローチである。アセット・アプローチにはいくつかの考え方がある。まず、金利と為替の関係を考えた場合、市場には裁定が働くため、最終的にはどの通貨を買っても得られる収益が同じになるよう為替レートが決まる(金利平価説)。また、マクロ経済の基礎理論に従えば、金利(i)は、物価(P)、貨幣供給量(M)、国民所得(Y)との関係の中で決まる(M/P=L(Y,i))。このように、為替と金利の関係に加え、金利の変動要因をモデルに組み込んだ理論を、マネタリー・アプローチと言う。マネタリー・アプローチのモデルでは、例えば政策金利の変更等があった場合に、人々の予想の変化などに応じて、現実の為替レートが理論値よりも一時的に大きく振れる(オーバーシュート)可能性も説明できる。マネタリー・アプローチの問題点は、国内資産と海外資産が完全に代替的であることを前提としており、海外資産に投資する際のリスクを考慮していない点である。投資家は、海外投資の方により大きなリスクプレミアムを要求するのが普通であり、こうしたリスクの違いを考慮した上で、海外資産と国内資産との間で最適な資産の組み合わせを選択するという理論を、ポートフォリオ・バランス・アプローチと言う。
 また、為替にもファンダメンタルズに基づかないバブルという状況が生じうるほか、ファンダメンタルズに基づいた市場予想の変化が引き起こす「ペソ問題」、相場の流れに人々が便乗することによって起こる「バンドワゴン効果」、米国の対日圧力が円高心理の定着につながったとする「円高シンドローム説」など、市場心理が果たす役割も大きいことがわかっている。




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「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
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