100辞書・辞典一括検索

JLogos

26

コースの定理
【こーすのていり】


Coase Theorem

市場取引の過程で、ある種の副作用のような事象が生じることにより、市場メカニズムがうまく働かないことがある。例えば、生産の増加とともに環境汚染が増大する場合などで、こうした副作用のことを「(負の)外部性」という。この例では、企業に環境汚染を減らす経済的なインセンティブがなければ問題は解決しないため、通常は政府が外部性を相殺させるような課税(ピグー課税)や規制等によって市場に介入することが必要になる。しかし、R.コースは外部性が存在する場合でも、交渉費用が小さければ、民間の当事者同士の交渉に任せておいても市場の失敗は発生せず、常に効率的な状態が保たれる可能性があることを示した。これを「コースの定理」という。例えば、企業がどの程度の環境汚染を許容するかの決定権を持っている場合、家計は一定の費用を払って汚染の排出をやめるよう交渉することになる。支払い金額は当事者同士の交渉能力に左右されるが、理論的には、汚染を1単位減少させることによる企業の利潤の減少額と、家計の損害の減少額が釣り合う点で決まる。逆に、家計に環境維持の権利がある場合、企業が家計から環境汚染の権利を買う形になる。この場合の支払い金額は、1単位の汚染を増加させることによる企業の利益の増加額と、家計の損失の増加額が釣り合う点で決まる。このように市場取引の当事者同士が外部性を考慮に入れたうえで、市場の均衡点が決まる場合、彼らは外部性を内部化しているという。R.コースはこの定理の功績により1991年にノーベル経済学賞を受賞した。現実の社会では、外部性を常に内部化できるわけではない。交渉にはかなりの費用がかかる場合が多いこと、当事者のどちらに法的な優先権があるかという権利の確定が困難であること、そもそも当事者の特定が容易ではない場合があること、交渉の長期化により当事者の効用が低下する可能性があることなどがその障害となるためである。環境汚染の例の場合、市場取引を使ったもう1つの解決方法は、汚染権自体を売買することであり、これが排出量取引である。
【参照キーワード】

排出量取引
外部性




(c)2009 A&A partners/TMI Associates/ Booz&Company(Japan)Inc./ Meiji Yasuda Insurance Company
日経BP社
「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
JLogosID : 8516840