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時間的非整合性
【じかんてきひせいごうせい】


事前には最適であったはずの政策が、実際に政策を行う段階では必ずしも最適ではなくなることを、政策に関する時間的非整合性の問題という。人質解放をめぐりテロリストと交渉する政府の例を考える。多くの政府は、誘拐事件防止のため、テロリストと人質解放のための交渉はしないと明言している。しかし、実際に誘拐が起こってしまった場合、人命尊重がもっとも重要な使命となる場合が多い。この場合、誘拐が起きる前と後で、政府にとっては最適な政策が変わってしまうことになる。テロリストも当然こうした政府の事情を知っているため、なかなか誘拐事件は減らない。これは政府とテロリストがゲームの関係にあることを示しており、このように事前と事後で最適な政策が変化することを「サブゲーム不完全」という。政府が、「テロリストと交渉はしない」という自らの政策の信任性を高め、結果として誘拐事件の減少につなげるためには、あらかじめ法制化などでテロリストとの交渉を禁じることが、少なくとも理論的には有効な政策となる。
金融政策にも同様のことが言える。中央銀行が、「インフレは起こさない」と宣言したとする。この政策の有効性を民間の経済主体が信じた場合、インフレ期待の安定につながるのでインフレは起きにくくなる。ところが、こうした状況下では中央銀行がインフレを避けつつ緩和政策を打つことができるようになるので、最適な政策はむしろインフレ刺激的な政策ということになってしまう。これが、「インフレ・バイアス」と言われる問題である。時間的非整合性の問題は、政策を完全な裁量に任せるよりも、一定のルールに従い裁量の余地を制限した方が、政策に対する信頼性が増す可能性を示している。金融政策の例では、多くの中央銀行がインフレ目標制度を導入する根拠ともなった。




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「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
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