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コンカレント・エンジニアリング
【こんかれんとえんじにありんぐ】


Concurrent Engineering

コンカレント・エンジニアリングとは、製品の開発・生産準備などの一連の諸工程を並行的に実行し、リードタイムとコストの低減、また性能や品質の向上を図る手法のことである。コンセプトとしては数十年前から存在したが、注目をあび実践されてきたのは主に1990年代後半からである。フロントローディングと密接に関連する。
製品の開発・生産準備は、非常に多くの工程から成り立っている。大項目としてでも、製品企画、概念設計、仕様設計、意匠製作、製品詳細設計、試作、評価、調達企画、サプライヤー選定、生産・物流工程設計、設備・型製作、生産パイロット、作業者訓練等々の工程から成り、さらに各大項目はより詳細の工程に分かれる。一般的には、これらの工程の多くを時間軸で直列的につなぎ作業を進めるため、1つの製品を企画してから立ち上げるためには、膨大なリードタイムを要する。また、後工程の都合を無視し作業が進みやすいため、途中段階で問題が発生しやすい(機能的にはよいが、生産コストが高くなるなど)。さらにこの時、対策のために多くの工程を戻ったり、もしくは大きく戻ることを避けて対処療法を行うために、リードタイムの延長、コスト高、また性能・品質の低下につながるなどが起こる。これらの問題を避けるために、極力多くの工程を時間軸で並列的につなげたのが、コンカレント・エンジニアリングである。
コンカレント・エンジニアリングを実現するキーポイントは大きく2つある。設計サポートデバイス等のハード的側面と、契約や慣習等のソフト的な側面である。ハード的側面では、進歩したIT技術が大きく関係する。例えば、製造作業をバーチャルに再現する映像技術である。以前は工場内での作業性は物理的な試作品を作らないと確認ができず、設計→試作→作業性評価→再設計→再試作というような手順を踏まざるをえなかったが、1990年代後半からのCAD/CAEや映像技術の発達により、物理的な試作品を作らずに最初の設計段階で並行的に作業性評価が可能になった。ソフト的な側面では、契約や業務慣習等がポイントになる。開発や生産準備中における、役割や責任、またそれによる発生費用負担等を契約で明確にしたい場合、直列作業の方が容易である。例えば、製品仕様確定後にサプライヤーを決定した方が、サプライヤーへの要求事項はクリアであり、これにより明確な契約が可能になる。しかし、コンカレント・エンジニアリングでは製品仕様検討時(仕様確定前)にサプライヤーに参加してもらう場合があり、この時は契約が曖昧もしくは複雑にならざるを得ない。良くも悪くも、慣習として曖昧な契約をベースにすり合わせ設計を積み重ねることを得意としている日本の製造業は、契約志向の強い欧米型に比べ、ソフト面でのコンカレント・エンジニアリングへの適応力は高い。自動車業界等において、コンカレント・エンジニアリング面で日本企業が世界をリードしている理由は、このソフト面での強みが大きいからと考えられる。実際には、このソフト面に配慮せず、IT等のハード面のみの対処でのコンカレント・エンジニアリングの実現を目指すケースが多く見られるが、当然ながら効果的な実現は容易でない。




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「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
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