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排出権(取引)
【はいしゅつけん;はいしゅつけんとりひき】


Emissions Trading

排出権は、地球温暖化の原因とされるGHG(温室効果ガス。CO〔sub〕2〔/sub〕、メタンなど)を排出する権利を数値化した概念であり、単位はトンCO〔sub〕2〔/sub〕(他のGHGの場合もCO〔sub〕2〔/sub〕に換算)である。排出権には以下の2種類がある。&wc1;アローワンス:各国(地域)政府によって事業所・施設ごとに排出量の制限(アローワンス)が規定され、超過分の排出権は他企業から購入するか、罰金を支払うことが義務付けられる。代表的なものとして欧州のEU-ETSと呼ばれる流通制度があり、対象事業所・施設数が1万2000を超えるなど、規模は世界最大である。なお、日本では企業を対象とした拘束力のある制度は無く、あくまで自主規制となっている。&wc2;クレジット:GHG削減プロジェクトを実施した場合、その削減分を第三者機関が排出権(クレジット)として認証するものである。最も普及しているのは京都議定書のメカニズムに基づくCDMと呼ばれるもので、EU-ETSの排出権と互換性がある。&wc1;や&wc2;で生み出された排出権は、市場を介して売買(排出権取引)できる。その市場規模は、2006年で312億ドル(約3.1兆円)、2007年で640億ドル(約6.4兆円)、2008年は1000億ドル(約10兆円)規模と拡大基調であり、すでに金先物市場の規模(約4.5兆円)を超え、原油先物市場(約15兆円)に近づきつつある。市場の内訳としては、上記EU-ETSが全体の78%(約5.0兆円)を占め、残りほとんどがCDM(約1.3兆円)である。
排出権市場の特徴として、需要そのものが自然発生的でなく政策・制度に大きく依存していることがあげられる。したがって、有機的かつ継続的な成長を維持するためには、政府によるコントロールに高い精度が求められる。実際、2005年にはEU委員会による制限枠が実排出を上回ったことが原因で記録的な価格下落となるなど、制御の困難さが浮き彫りとなっている。このような特徴は、いわゆる環境ビジネスに共通のもので、例えば太陽電池の場合、個人・法人が太陽電池で生産した電力を電力会社がプレミアム価格で買取ることを長期保証する政策に市場の行く末が大きく依存している。
また、今後排出権取引の普及に伴い、バリューチェーン上でエネルギー効率の悪いプレイヤーへのコスト皺寄せが強まると見られる。これまではエネルギー関連企業が排出権の主な買い手であったものの、今後はより下流にあっても低効率な企業は排出権コストを支払わなければならなくなっていくであろう。この負担のインパクトは大きく、仮に原油価格にCO〔sub〕2〔/sub〕排出権コストを上乗せすると140%、石炭では220%にもなる(1トンCO〔sub〕2〔/sub〕あたり5000円で試算)。この差分を誰が儲け、誰が支払うのかというゲームが始まりつつある。昨今の世界的不況により、製造業の生産が低レベル(=低CO〔sub〕2〔/sub〕排出)となっているため、直近の排出権価格は低位で推移している。リスクヘッジの観点から見れば、生産効率化・省エネなどの打ち手を講じるチャンスなのかもしれない。




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「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
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