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フロントローディング
【ふろんとろーでぃんぐ】


Front Loading

基本は、製品の開発・生産準備やITシステム構築時において、初期工程に集中的にリソースを投入し、後工程で発生しうる問題をこの段階で極力排除することにより、トータルでのリードタイムやコストを低減、また性能や品質の向上を図る手法である。コンカレント・エンジニアリングと密接に関連する。またこの考え方は、実質的に試作評価ができなかったり、やり直しを行うことの制約の大きいプラントや建築プロジェクトにも有効に活用されている。さらに広くは、経営課題解決策検討プロジェクト運営等、あらゆるプロジェクト・マネジメントものに応用が可能な概念である。
一般的に、製品やITシステムの開発・生産準備プロセスにおいては、相対的にリードタイムやコストの負担が大きい工程(ここでは便宜的に「ボトルネック工程」と呼称する)が存在する。例えば、機械製品における「試作品製作+評価」、「本型製作+トライアル・修正」といったものがこれに該当する工程である。一連のプロセスの中で、このボトルネック工程を何度か繰り返す事態に陥ると、リードタイムやコスト面での負担が大きくなる。さらに、多くの場合はかけられる時間やコストに制約があるために、結局は性能や品質の低下となって製品に反映される。また一歩進んで、逆にこのボトルネック工程をスキップすることが可能になれば、リードタイム短縮やコスト削減効果も大きい。ボトルネック工程で繰り返し作業を発生させる、もしくはこの工程を必要とさせる根本原因は、その前方の工程にある場合がある。この前工程に対し多めの工数や費用を費やして上記根本原因を解消することで、ボトルネック工程でのリードタイムやコストを削減し、トータルでメリットを享受することが、このフロントローディングのコンセプトである。上記の例に照し合せれば、初期の設計段階での机上評価がレベルアップすれば、「試作品製作+評価」工程の繰り返し作業を防ぐことができるし、場合によってはこの工程をスキップできる。また「本型におけるトライアル・修正」の回数も削減できる。
1990年代にフロントローディングが進んだ理由としては、消費者の嗜好変化速度の高まりと競争環境の激化という市場の要請を背景に、CAD/CAEや映像技術の発達等に後押しされコンカレント・エンジニアリングが進んだことがあげられる。コンカレント・エンジニアリングにより、初期工程での問題点の解消が容易になったわけである。また、ものやシステムを作らない段階での問題発見を推進するために、エンジニア個人の経験や勘頼みであった技術ノウハウが、組織ナレッジとして整備されてきた点も見逃せないポイントである。
ただし、ボトルネック工程の繰り返しやスキップを重視しすぎると、限界設計ができず逆に部品製造原価やシステムコストのアップにつながったり、本来必要な実物評価まで軽視し、結果的に品質の低下につながったりする場合がある。2000年代前半以降に国内の自動車のリコールが急増した原因の1つには、机上検討に頼りすぎ試作評価削減が行き過ぎたためとの意見がある。また、ものづくりやシステム設計における技術者の能力は、ある意味現実の失敗を重ねることで高まるという側面も否定できず、初期段階で問題を解消する中で、いかに若いエンジニアの能力を育成するかが今後の課題と言える。




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「日経ビジネス 経済・経営用語辞典」
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