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デリバティブ(不動産デリバティブ)
【でりばてぃぶ;ふどうさんでりばてぃぶ】


Derivatives

【デリバティブとは】
デリバティブ(Derivatives)とは、金融派生商品と訳され、基礎となる商品(これを一般的には「原資産」と呼ぶ。)があって、そこから派生する数値や指標によって、その価値が決まる金融商品のことを指す。すなわち、「別のもの(の価格)が動くことによって、自分(の価格)も動いてしまう」という特徴をもった商品を総称して指す。
原資産の保有者にとっては、原資産に係るリスクに対する有効なヘッジ手段として、デリバティブを用いることができる。例えば、原資産と逆の動き方をするデリバティブ商品を利用することによって、原資産の価値が下がった際に、その損失を補填する役割を期待することができるのである。
デリバティブの取引手段の形態を大きく分類すると、先物(将来の物を今取引する)、オプション(将来ある価格で売買する権利を取引するが、実際に取引するかは権利の購入者に選択権がある)、スワップ(当事者それぞれが将来にわたって得られるお金を交換する)の三種類となる。

不動産デリバティブとは】
不動産デリバティブとは、一言で言えば、「不動産に関わる指標や事象(不動産価格、賃料、空室率、稼働率など)」を原資産とするデリバティブのことを指す。すなわち、不動産に関わる指標や事象が変化することにより(例えば不動産の価格が上下することにより)、価格が変化する商品がこれに相当し、広い意味では賃料や空室率の保証契約なども、不動産デリバティブと考えることができる。
しかし、一般にデリバティブと言った場合には証券化商品や契約を指さず、先物・オプション・スワップの形態を指すため、不動産デリバティブも、不動産に関わる指標や事象を原資産とする先物、オプション、スワップのことを指すのが一般的である。

【原資産としての不動産投資インデックス
不動産デリバティブ取引においては、原資産である不動産に関わる指標として、不動産に投資した場合の価格変化や収益を指標化した「不動産インデックス」を使用することが一般的である。不動産に投資した場合の収益にはインカム収益(不動産の賃料収入を基にした収益)とキャピタル収益(期末と期首の時価評価額の差額を基にした収益)があるが、不動産デリバティブには、これらのインカム収益、キャピタル収益を合計した総合収益を表す「不動産投資インデックス」を使用することが多い。
例えば英国において、不動産デリバティブ取引に最も利用されているIPD(Investment Property Databank)社の不動産投資インデックスは、彼らのクライアントである年金基金、保険会社、不動産会社、投資ファンドが保有する商業用不動産に関するデータを収集して作られており、投資用不動産市場の約6割をカバーしている。
一方、日本においても、商業用不動産を対象とした不動産投資インデックスがいくつか登場しているが、地価公示J-REITが保有する不動産に関するデータを収集して作られたものであり、日本の商業用不動産全体の動向を表すものとして、機関投資家などから信頼を得られているとまでは言えないのが現状である。

不動産デリバティブの例~トータル・リターン・スワップ
英国などにおいて最も盛んに取引されている不動産デリバティブは、トータル・リターン・スワップ(Total Return Swap, TRS)と呼ばれるものである。TRSはスワップの一種であり、「不動産の総合収益(トータル・リターン)相当の金銭」と「一定の金銭(約定によっては変動する設定もある)」を交換する取引である。例えば、不動産を保有するA社は今後、不動産価格の下落を予想していたとする。その際、A社は、毎年、不動産投資インデックスに基づき計算される総合収益相当の金銭を支払う代わりに、金利などにより計算される一定の金銭を受け取るTRS取引を行うことで、不動産価格の下落による損失を一部回避できる。A社の取引の相手方となるのは、A社とは逆に、今後、不動産価格の上昇を見込んでいる投資家などである。投資家(B社)は、毎年、一定の金銭を支払うことにより、不動産の総合収益相当の金銭を受け取ることができ、不動産に投資したのと同様の効果を得ることができる。実際にA社とB社のいずれがTRS取引で利益を得るかは、不動産投資インデックスが、契約期間中において、どのように変動するかによって決定される。

日本においては、2007年に英国系の銀行RBS(Royal Bank of Scotland)と英国系の不動産投資家グロブナー(Grosvenor)によって、期間2年間のTRS取引が行われたが、テスト取引という位置付けだったようであり、その後、続けて取引が行われたとの情報は聞かれない。海外では普及している不動産デリバティブであるが、日本では2011年時点ではほとんど取引されていない。




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「プロフェッショナル用語辞典 不動産ビジネス」
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