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クレオパトラに惑わされ帝政に向かうローマ


クレオパトラに惑わされ帝政に向かうローマ

◎惰眠をむさぼった100万都市ローマ

 地中海を制したローマは、征服した土地を属州(植民地)とした。属州は土地収入の10分の1の人頭税、貢納、首都への穀物供給などの義務を負わされ、総督による苛酷な支配がなされた。

 たとえば、前42年に属州アジアの総督となったブルートゥス(カエサルの暗殺者)は、属州民に10年分の税の前払いを要求し、翌年に赴任した総督アントニウスは、さらに9年分の税の前払いを要求した。何と2年間に19年分の税が要求されたことになる。

 その一方で、重装歩兵として働いた中小農民は没落し、資産を失って無産市民になっていく。こうした没落市民は、「パンとサーカス」をエサに、有力者にとり込まれていった。社会が急変するなかで社会不安が拡大し、競技場での殺し合いを強いられた剣奴スパルタクスを指導者とする奴隷反乱(スパルタクスの乱)などが相次ぐと、カエサル(シーザー)、クラッスス、ポンペイウスの3人の有力者は、「3頭政治」という新たな共同統治体制をしいて秩序の確立をめざした。

◎カエサルの独裁と暗殺

 カエサルは、ガリア(現在のフランス)をローマ化し、ブリタニアのブリトン人を征服し、西ヨーロッパのローマ化の基礎を固めた。それを恐れたポンペイウスは元老院と結んでカエサルをローマに呼び戻すが、勢力の喪失を恐れたカエサルは、「賽(サイコロ)は投げられた」として、法律で軍団を率いて渡ることを禁じられていたイタリア北部のルビコン川(現在は不明)を渡り、ローマを制圧して、ポンペイウスを倒した(前47年)。

 凱旋したカエサルは、終身独裁官、インペラトル(最高軍司令官)の称号を与えられ、権力を一身に集めたものの、前44年3月15日にポンペイウスの像の前でブルートゥスなどの反対派に暗殺された。

◎ローマ“帝国”形成と複雑にからむクレオパトラ

 カエサルの暗殺後、カエサル派は3人の首脳による第2回3頭政治を行ない、実権を掌握した。しかし、やがて同派のアントニウス(カエサルの有力な部下)とオクタヴィアヌス(カエサルの養子)が地中海世界を2分して争うことになった。アントニウスが教養と野心に富む美女クレオパトラに惑わされたためである。

 アントニウスは、エジプトの女王クレオパトラと結んで東方帝国を建設し、ローマからの分離を画策する。対するオクタヴィアヌスは前31年にアクティウムの戦いで両者の軍を破り、ついでエジプトを滅ぼした。

 オクタヴィアヌスは、前27年に3頭政治を廃止して一切の権力を元老院に戻したが、元老院はオクタヴィアヌスに「アウグストゥス」(尊厳なる者の意)の称号を与え、インペラトル、司祭長などの地位を与えた。彼は、独裁的支配を嫌うローマの伝統を尊重し、「プリンケプス」(市民の第一人者の意味、後のプリンスの語源)として、実質的独裁政(帝政)を始めることになる。




日本実業出版社
「早わかり世界史」
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