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大雪山
【たいせつざん】


「だいせつざん」ともいう。道内最高峰の旭岳(2,290.3m)を主峰に,20以上の火山が密集した複合火山の総称。上川地方上川町・東川町・美瑛(びえい)町にまたがり,北海道の屋根ともいう。広義には,上川・網走・十勝の3地方の境界をなす石狩山地を中心とした北側の表大雪と,南側の然別(しかりべつ)火山群をも合せた十勝地方の東(裏)大雪を含む。昭和9年に大雪山国立公園に指定。面積・規模ともに山岳公園としてはわが国随一で,大正10年に入山した大町桂月は「富士山に登って山岳の高さを語れ,大雪山に登って山岳の大きさを語れ」と称した。「日本名勝地誌」に「山岳中其高峻なるものを挙ぐれば大雪山(元名ヌタクカウシュベ)なり」とあるのが大雪山呼称のはじまりとされ,ヌタプカウシペは「川の湾曲部内の地の上にいつもいるもの」(アイヌ語地名解)の意とされ,本来は旭岳の呼称として用いられた。旭岳はイシカリ岳またはイシカリノホリと呼ばれ,松浦武四郎の「山川地理取調図」でも石狩岳と記載。米人地質学者ライマンも「石狩岳ハ真ニ旧火山ノ形容ヲ具セリ」と記し,ナウマンも明治18年の「日本列島の構造と生成」で,3つの高い峰として,十勝岳・夕張岳とともに石狩岳をあげ,元来の石狩岳は明治になり,東オプタテシ山と呼ばれた。大雪山は山峰・高原・渓谷・湿原などで構成される。洪積世初期に高根ケ原や,沼の原を作る安山岩の溶岩台地に南西に開いた馬蹄形の配置をなす黒岳(1,984m)・北鎮岳(2,246m)・赤岳(2,078m)などの外輪山溶岩が噴出し,古大雪火山が出現した。その後この火山の中央にできた成層火山の中央に御鉢平のカルデラが形成され,その際北海平や層雲峡の溶結凝灰岩の流出がみられ,外輪山として旭岳や熊ケ岳(2,210m)が生じた。御鉢平はかつて火口湖で,現在も硫気孔や噴気孔が散在し,有毒温泉と呼ばれ立入禁止になっている。旭岳は西側に開いた爆裂火口をもち,永山岳(2,046m)にかけては旭平・裾合(すそあい)平や沼の平と呼ばれる広い平坦面があり,姿見の池・鏡池などの火口湖が散在する。南部の白雲岳(2,229.5m)以南はかつては御料地であったが,標高1,800m前後の高根ケ原が西に緩斜面をなし,忠別川の峡谷によって切断されている。高根ケ原は北海平と並び周氷河地形の構造土の形成でも知られる。植物地理学上もアジア大陸・千島・本州の要素をもつ植物の会合点となり,群落の大きさと種類では比類がない。特にお花畑は標高1,700m以上のハイマツ林の間に交錯してみられ,地形・気象条件などにより異なった群落に分けられる。動物もダイセツタカネヒカゲ・ウスバキチョウなど氷河期の遺存種のほか,ナキウサギ・エゾライチョウなども生息。集団登山は明治40年に旧制旭川中学校をもって嚆矢とされるが,大正10年前後には双雲別(現層雲峡)の出身者が大雪山登山案内人組合を結成,黒岳石室が建設され,黒岳登山道が開削された。大正12年には天人峡と層雲峡を結ぶ縦走登山道も開設。山麓にある温泉が大雪山登山の根拠地ともなり,北側の層雲峡温泉から黒岳ロープウエーを利用して,黒岳―北海岳(2,149m)―間宮岳(2,185m)―旭岳に達し,さらにロープウエーで旭岳温泉(旧勇駒別温泉)に至るコースは最も一般的で,大雪山銀座と呼ばれる。温泉はこのほか,愛山渓・天人峡温泉,標高1,350mの大雪高原温泉などがある。昭和29年の洞爺丸台風による風倒木の処理のため林道が開発され,国道39号の大雪国道に代表される道路整備が進展し,観光地化が促進され,道内の山岳地帯のなかでは最もポピュラーな山域となり,昭和40年頃に赤岳を経て,旭岳温泉に至る大雪縦貫道路が計画されたが,原生的自然保護の点からも反対が多く,中止となった。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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