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日高山脈
【ひだかさんみゃく】


広義には道東と道央,狭義には日高地方と十勝地方の境界をなす山脈。北海道の脊梁山脈で,地質学的には蝦夷山系の一部。北は狩勝峠,南は襟裳(えりも)岬に至る南北約140km,東西約30kmの,わが国有数の山脈。高度は北部では1,000m前後で,中央部は2,000mに達する高山群からなり,道内の他の山地とは異なり地形が急峻で,アプローチが長いため本州の3,000m級の高山に匹敵するという。成因は従来,日高造山運動により海底の地向斜堆積物が変成され,日高帯と呼ばれる造山帯により山脈が形成されたといわれたが,最近ではユーラシア・北米・太平洋の3つの巨大なプレートの相互運動により,水平であった地殻が千島前弧の衝突などにより西側に突き上がったとされる。山脈の東側は,断層崖をなして山地が切り立ち,扇状地が広く発達して十勝平野の一部をなす。一方西側は緩傾斜面を形成し,前山として神居古潭(かむいこたん)変成岩からなる夕張山地があり,静内川・新冠(にいかつぷ)川などには水力発電所の立地も多い。山脈の主峰は幌尻(ぽろしり)岳(2,052.4m)で,カール(圏谷)地形でも知られ,火山以外では道内最高峰。この山は戸蔦別(とつたべつ)岳(1,959m)やビハイロ岳(1,917m)とともに山脈北部の主要部を構成し,芽室岳(1,753.7m)では高度を減じ,日勝峠・狩勝峠へと続く。山脈中部はエサオマントッタベツ岳(1,902m),その南のカムイエクウチカウシ山(1,979.4m)を主峰とし,ペテガリ岳(1,736.2m)までの急峻な山容となる。南部は中ノ岳(1,519m)・神威岳(1,600.5m)を除くと標高1,500m以下で,十勝岳(1,457.2m)・楽古(らつこ)岳(1,472.2m)を経て豊似(とよに)岳(1,105m)に達する。この山脈の延長部は干出礁脈となって襟裳岬の沖合1.3kmにまで及ぶ。「日本風景論」には「日高山脈の南走して襟裳海角にいたる」とあるが,明治8年の開拓使の北海道之図にはサホロ岳のほかは北日高にエヽ子エン岳・キウサン岳の名称があるのみ。両山は「大日本地誌」にも登場し,エヽ子エン岳は現在の帯広岳(1,089m),キウサン岳は妙敷山(1,731m)と思われ,十勝平野の西縁にあることから人目にふれる機会が多かったことによる。明治10年の「日本地誌略」には「山脈延キテ南ニ亙リ,其十勝ノ境ヲ画ル者ヲ,神居,猟虎,阿茶利,豊似,唐淵,安淵諸岳トス」とあり,日高山脈の名称はない。またこの山脈には氷食地形が多く,南部の豊似岳までの山地の東側には大小数十個のカールが確認され,明らかな形態のものは中心部で二十数個とされる。なかでもペテガリ岳,幌尻岳の東西両カール,戸蔦別岳の七ツ沼カールは有名で,カール底はお花畑としても知られる。カール底の高度は形成時期の相違を反映して標高1,300mと1,600mに分かれ,森林限界ともほぼ対応する。森林は北日高ではエゾマツ・トドマツの針葉樹,中部日高の東側はミズナラ・シナノキ・ヤチダモの広葉樹林などが卓越する。クリ・コナラ・クズ・サンショウの分布限界をなし,植物の固有樹は少ないが,ヒダカミネヤナギ・カムイビランジ・ヒダカトリカブトなどがあり,エゾツマジロウラジャノメ蝶は特産種。ナキウサギ・エゾシカの生息数も多く,エゾオオカミは明治20年代まで生息が確認された。近代の登山は,明治44年に地質調査の折,伊木常誠や岡村要蔵らが神威岳やイドンナップ岳(1,748m)に登山した記録がある。純登山は大正12年に北海道帝国大学予科旅行部による芽室岳登山が始まりとされ,その後北日高から登山がなされ,昭和7年までにはすべてが登頂された。山域が深いため,沢を溯行してハイマツが密生する稜線に出るコースが一般的。厳冬期の山行は稀で,大量遭難もあった。現在も登山家のあこがれの山となり,日高随一の名山といわれるペテガリ岳や幌尻岳・戸蔦別岳は人気が高い。登山客のためペテガリ山荘や幌尻山荘のほか,戸蔦別ヒュッテや札内ヒュッテが設置されている。この山脈は道内の自然・社会的な境界をなし,現在まで山脈中央部を横断する路線はない。古くからの自然的通路としては沙流(さる)川の本流から日勝峠を経て十勝清水に至るものと,鵡川(むかわ)の上流から上トマムに出て,空知川の支流を経て新得(しんとく)に達するものがあり,前者は現在国道274号となる。山脈を横断する鉄道は根室本線・石勝線(昭和56年開通)でともに北部日高にあり,道路は国道274号,根室本線に並行する国道38号のほか,南端の襟裳岬を回る国道336号(黄金道路)がある。広尾町と浦河町を結ぶ南日高の国道236号は工事中。昭和59年にはカムイエクウチカウシ山とコイカクシュサッナイ岳(1,719m)の間を通り,静内町と中札内村を結ぶ通称日高横断路建設が着工した。この道路は昭和56年に指定された日高山脈襟裳国定公園の特別保護地区内を通るため,自然保護の点でも問題点が指摘された。道路建設のほか,電源開発や森林開発などにより日高の原生的自然への影響が強まり,保全が大きな課題となっている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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