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北上山地
【きたかみさんち】


県東半部に位置する紡錘状平面形の非火山性山地。青森県八戸市鮫町鮫岬から宮城県牡鹿(おじか)半島黒崎に及ぶ。南北延長約254km,東西の最大幅約80km,面積約1万2,000km(^2)で,県の3分の2の地域を占める。地形・地質・地質構造・高度分布など阿武隈山地との共通性が多い。西端を重力測定によるブーゲ異常線(盛岡白河構造線)が南北に走る。基盤岩類は,古生界を主体に中・新生界まで分布する。古生界は先シルル系の氷上花崗岩からシルル系・デボン系・石炭系・二畳系で構成され,砂岩・礫岩・粘板岩・チャートを主体とする二畳系の分布が広い。早池峰構造地帯を境に北部北上帯と南部北上帯に二分され,前者は岩手郡葛巻(くずまき)町,下閉伊(しもへい)郡岩泉町の門・浅内と連続する葛巻構造線によって北東側の中生界・岩泉帯と区分される。南部北上山帯は紫波(しわ)郡紫波町日詰から宮城県気仙沼市に至る日詰気仙沼構造線により二分される。中生界は,三畳系・ジュラ系・白亜系の砂岩・頁岩・礫岩・チャート・輝緑凝灰岩からなり,北部北上山地北東縁,大船渡市付近に分布する。新生界第三系は,山地北端から西縁部と岩泉町小本川上流,久慈市付近にある。第四系は,北上川,馬淵川水系と三陸沿岸の段丘群・山地緩斜面・第四紀火山噴出物で構成される。山系・水系の配列方向,特に北北西・南南東方向の主要部は,いずれも基盤岩類の地質構造を反映し,第三紀末~四紀に形成された。当山地全体は高い谷密度で,開析する河谷の間に島状に分布する山体群で構成され,高度分布は,定高性のある尾根,隆起準平原状平坦面によって,(Ⅰ)1,000~1,200m,(Ⅱ)800~900m,(Ⅲ)500m~600mの3面群に区別される。最高峰は,ほぼ中央にある早池峰山(1,914m)で,周辺には薬師岳(1,645m),鶏頭山(1,445m)・青松葉山(1,366m)・サクドガ森(1,361m)・害鷹森(1,305m)・五葉山(1,341m)の山体が残丘状に位置する。姫神山(1,124m)・安家森(1,239m)と連続する山体は(Ⅰ)例に,毛無森(869m)・物見山(917m)・種山(871m)・室根山(895m)は(Ⅱ)例に当たる。南北の高度分布は,早池峰山から北は階上(はしかみ)岳(740m)・名久井岳(615m),南は牡鹿半島の400m級山地までドーム状に低下する。東西は,山地境界付近まで800~1,000mの山稜が迫り,断層崖状高度分布を示す。このような地塊運動による隆起準平原状平坦面は山稜鞍部,緩斜面に分布する山砂利層の層序と編年から鮮新世~更新世にかけての形成が推定されている。当山地を下刻する諸河川は,北上川・馬淵川の支流と直接太平洋に注ぐ河川からなる。山地内の各谷底には,軽米(かるまい)・岩泉・葛巻・川井・小国・遠野・人首などの浸食小盆地が発達する。北上川の支流の中で当山地に水源を持つものは,丹藤川・中津川・簗(やな)川・稗貫(ひえぬき)川・猿ケ石川・人首川・砂鉄川があり,北流する馬淵川は八戸市で新井田川と合流する。一方,東流して太平洋に注ぐ河川は,北から久慈川・安家川・小本川・閉伊川・大槌川・鵜住居(うのすまい)川・甲子川・気仙川があり,断層線谷を流下する例が多い。河岸には,北上川・馬淵川水系と形成期を同じくする4面群の更新世段丘群が分布し,更新世~完新世にかけて降下した火山灰層に被覆される。当山地は,内陸部と三陸海岸の気象境界としての位置を占め,気圧の移動に伴うフェーン現象など多様な気象変化を示す。特に,5月の晩霜・やませ(山背風)による低温は,冷害の元凶となっている。このような気候条件の厳しさの中で,豊富な地下資源(鉄の釜石鉱山,銅の田老・赤金・大峰鉱山,マンガンの野田玉川鉱山,耐火粘土の小川・夏井鉱山など)がありながら,産業基盤整備の遅れから多くの資源が眠っている現状にある。しかし昭和42年からは観光・地下資源開発,産業用道路網の整備を基本にした北上山系開発がスタートした。また,昭和50年からは,広域農業開発事業が葛巻地区,新山・貞任地区,田代・大川地区(昭和51年),河原大鉢森地区(同52年),九戸北部地区(同53年),遠野大洞地区,下閉伊北部地区に工事が進みつつある。特に,昭和48年からの大規模林業圏事業開発事業では,総延長281km,幅員7mの全舗装林道が八戸~住田間で進む。これは,近年の三陸鉄道の整備,国道340号・45号の全面舗装・補修工事の進展とあいまって,内陸と海岸を結合し,数多くの辺地障害を克服する動向といえる。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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