100辞書・辞典一括検索

JLogos

29

阿武隈山地
【あぶくまさんち】


県の東部で南北に延び,南は茨城県北部まで,北は宮城県南部まで及ぶ高原状の山地。南北約170km,東西最大幅50km,東側は中北部で岩沼・久之浜線といわれる構造線に境され,いわき市付近では二箭(ふたつや)断層その他の影響で鋸歯状に出入りのある山麓線が見られるが,浜通り丘陵帯との境界は判然としている。西側は中通り低地帯の東縁まで広がるが,一部では山地界が明らかでない。この山地は高地あるいは高原とも呼ばれるが,以前は固有名がなかったので,磐城山脈などと記載した人もある(福島県地誌提要)。明治の初期に地質学者が日本の地帯構造を論ずるうえで必要となり,阿武隈の河川名をとってこの山地の名称とした。地質は大部分が花崗岩,古期および新期の花崗閃緑岩から成り,北東部や南部には古生代の変成岩類(緑色片岩類・黒色片岩類)が分布し,東縁には細長く中生代ジュラ系・白堊系の地層がみられる。これからみると中国山地のように長く浸食を受けたことを示しているが,一部で新第三紀の霊山層に覆われている。また山稜や鞍部の一部には第三紀以降と思われる礫層が認められ,準平原形成期を暗示している。最高峰は大滝根山(1,192.5m)で,その南の万太郎(まんたろう)山(960m),北東の檜山(ひやま)(992.5m)などとともに山頂に平坦面を残し,この山地では最も起伏の大きい分水嶺を形成する。その東部には畑川破砕帯をはさんで,天明山(488m)・国見山(563.7m)・八丈石山(507.1m)・東大森(669.5m)など主に新期花崗閃緑岩から成る山地が並び,主分水嶺との間に草野・古道・川内などの各盆地をはさんでいる。二箭断層崖以南では800m内外の高度に平坦面をのせた鶴石山(767.5m)・二つ石山(781.1m)・三株山(841.8m)が並び,南方ほど高原状の地形が明らかである。東斜面は急斜面で宇多川・真野川・新田川・請戸川・高瀬川・木戸川・夏井川・好間川・鮫川などがいずれも峡谷を刻んで東流し浜通り低地帯にでる。この峡谷部は一部で往来が容易でなく,尾根筋を利用した古道も多い。近代になって土木技術が進み,大部分は川筋沿いに新道が開かれた。西斜面は勾配が緩く,一部では小浜山麓地のように広い山麓階を発達させた所もある。移ケ岳(994.5m)・片曽根山(718.6m)・黒石山(896.4m)などは山頂付近が硬い斑糲岩質岩石(黒御影)で構成され,山麓階の上に残丘として聳立している。この山地の老年期の地形は,谷筋の配置によくあらわれ,主分水界付近でも夏井川の上流でみられるように,大滝根川の上流との分水界が明らかでないところがあり,国道114号(旧富岡街道)の水境,主要地方道原町川俣線の水境,国道115号の東玉野西方のように両側とも緩い勾配の鞍部となっているところがある。また東白川郡古殿町大字竹貫(たかぬき)西南部から石川郡石川町方面に向かう通谷や,伊達郡川俣町~飯野町間の通谷のように谷中分水が存在して,河川の争奪が行われたことを示す。この種の地形は石川郡浅川町中心市街地の南東に延びる谷や,東白川郡棚倉町北部にもあり,ここでは久慈川の上流およびその支流が,かつての阿武隈川の水系に属していたことを示している。この山地には北部に霊山,中部に阿武隈高原中部,南部に夏井川渓谷,勿来(なこそ)などの県立自然公園がある。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7028728