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水郷
【すいごう】


利根川下流のデルタ地域の地域名。茨城・千葉両県にまたがり霞ケ浦,北浦,印旛沼・手賀沼(千葉県)などがある。古くは流海(ながれうみ)・香取浦・浪逆浦(なさかうら)とよばれた地域で,小貝川(子飼川)の支流をもつ鬼怒(きぬ)川が流入していた。利根川の瀬替えにより江戸湾(東京湾)に注いでいた渡良瀬川も利根川に合流して銚子(千葉県)に注ぐようになり,上流から運ばれた土砂が堆積し,カスプ状デルタが発達した。そのため水害は幕末頃から激増した。この地域には洲や島のつく地名が多く,旧河道を中心に水路が網状に走り,これを江間(えんま)とよんでいる。水路は1km(^2)あたり74kmという高密度で,ほかに例がないという(日本地名事典)。江間は交通路として利用され,昭和30年代前半までは道路より重要な役割を果たした。各家では笹の葉に似たサッパ舟(農舟)をもち田畑と往き来した。昭和42年頃の水郷十六島のデルタ地域は1戸あたり平均3隻の舟を所有し,1隻に400~500束の稲を積んで運んだ。低湿地のため,宅地は周辺の耕地より盛り土で高くして家をつくる水塚(みづか)がみられる。この地域における近世初期の開発として有名なのが十六島の新田集落である。十六島という名称は,集落の発達する州が16あったことによる。集落は自然堤防上に発達し,上新島(結佐(けつさ)・上之島・中島・松崎・六角・西代),下新島(長島・八筋川・卜杭・大島・三島・中洲・扇島・加藤洲・磯山)からなる。現在上新島は茨城県東町,下新島は千葉県佐原市に属する。水稲は水害を避けるため早生種を栽培し,早場米地域として知られる。以前は鹿島台地から季節的出稼ぎがみられ,これを鹿島乙女とよんでいた。その水郷も昭和30年代から耕地整理が始まり,江間が埋め立てられて計画的に用排水路が造成されるとともに農道の整備も進み,変化しはじめた。また鹿島臨海工業地帯の造成により,浪逆浦の干拓地も埋め立てられた。水郷は「水の里」の意味で,徳富蘇峰の「水郷之美冠天下」として知られ,茨城県側の水郷大橋付近にその碑がたっていたが,現在は佐原市の水生植物園に移築されている。観光地として知られ,最初は日本水郷として県立公園に指定され,次いで水郷国定公園になり,現在は水郷筑波国定公園に指定され,特にアヤメの季節は素晴らしく観光客でにぎわう。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7037822