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布引の滝
【ぬのびきのたき】


神戸市中央区葺合町にある滝。生田川水源の花崗岩崖にかかる。下流から雌滝(めんだき)・鼓ケ滝・夫婦滝・雄滝(おんだき)の4つの滝が並ぶ。雌滝は高さ19m。布引の名の通り布をさらしたように女性的である。前面に観瀑橋がある。鼓ケ滝は雌滝と夫婦滝の中間にあるが険崖の渓谷は深く,滝の水音を聞くのみである所から名付けられた。夫婦滝は高さ6.15m,雄滝前面の渓谷の中にあり,二筋に分かれた凹渠を落下する形から名付けられた。雄滝は高さ43.3m。巌頭から5段に折れて落下し,各段に一宮ずつ大甌穴がある。巌頭より滝姫宮・白竜・白鬚・白滝・五竜宮と名付けられている。古来,西国街道に近く,海上からも眺められる名所として知られ,朱雀天皇の行幸をはじめ貴族・文人の来訪が多く,遊覧して歌を詠む風習があった。「古今集」巻17に在原行平の「布引の滝にて詠める歌」が見え,「伊勢物語」の「むかし,をとこ」が仲間とともに「布引の滝」を見にのぼる説話では,「その滝,物よりこと也。長さ二十丈,広さ五丈許なる石のおもて,白絹に石をつゝめらんやうになむありける」と形容されている。このほか,「平治物語」「源平盛衰記」などにも伝説の舞台を提供し,江戸期の浄瑠璃「源平布引滝」および同名の歌舞伎へとつながる。生田川左岸(東岸)の新町名はここを訪れた貴顕の和歌により,明治末期に命名されたものが多い。琴緒(ことのお)町(貫之)・国香(くにか)通(澄覚法親王)・日暮(ひぐれ)通(同前)・雲井通(隆家)・旭通(西園寺実氏)・東雲(しののめ)通(家隆)・小野柄(おのえ)通(加茂季鷹)・春日野道(貫之ほか)などである。なお,布引の滝を含む一帯の渓谷を布引渓谷と呼ぶ。




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「角川日本地名大辞典」
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