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春日野
【かすがの】


奈良市中央部,市街地の東部にある台地。若草山と春日山のうちの御蓋山の西麓部分をさす。春日野角礫層からなる洪積台地で,北は佐保川,南は能登川に囲まれた範囲をいう。同一の礫層からなる台地は南部の鹿野園(ろくやおん)にも広がるため,かつては両方の台地が春日野と総称された。現在,春日野と呼称されている台地は鹿野園の台地とはかなり離れており,両者の間は能登川や岩井川の谷によって区切られ,まとまった独立空間となす。その範囲について,「大和名所図会」は大鳥居より東,春日社までとし,「大和志料」は三笠山・若草山を中心とし,西大鳥居から野田までとする。また,貝原益軒の「和州巡覧記」には「広し。林多く。鹿多し。八景の一也」とある。明治に入って奈良公園が造成されていく過程で春日野はその中心となり,東大寺や興福寺,春日大社の所有地として維持されてきたことは,公園的景観を維持する上で重要な要因であった。南部には台地を刻む尾花谷川を利用した鷺池・荒池などの溜池があり,その南方小丘陵上に奈良ホテルがある。また,北部の東大寺周辺は台地であるにもかかわらず地形面に変化がみられ,大規模な造成が行われたことがうかがえる。西部は扇状地上にゆるやかに,一部は急斜面を境にして奈良市街地へ移行し,そこで区切られる。昭和63年4~10月「なら・シルクロード博」が当地一帯で開催された。また,春日野は古くから歌に詠まれることが多く,「春日野に咲きたる萩は片枝はいまだ含めり言な絶えそね」「春日野に朝居る雲のしくしくに我は恋まさる月に日に異に」など「万葉集」には梅・柳・萩・黄葉・藤・尾花・浅茅・馬酔木などの草木や雲・霞・露・雨・風・夕日・煙・社・鹿などが春日野の題材として詠まれている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7166121