100辞書・辞典一括検索

JLogos

16

若草山
【わかくさやま】


嫩草山とも書く。奈良市北東部にある山。標高341m。春日断層線上の北部の三笠火山群に属し,山体は複輝石安山岩からなり,山腹は一面のなだらかな草地である。山容が菅笠の形をし,3つの嶺が重なったようにみえることから,通俗的に三笠山ともいわれ,御蓋山と混同されてきた。若草山の名は「伊勢物語」で在原業平が「むさし野はけふはな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり」と歌ったことに由来するともいわれる。もともとは樹木の茂った山であったらしく(東大寺山堺四至図),この山をめぐる東大寺と興福寺の寺領争いが頻繁に起こり,解決のために山上の樹木を焼き払って境界を明確にしたことから禿山になったといわれる。これが現在でも毎年正月15日に行われる山焼きの伝統であるといわれるが,江戸期に出没した牛鬼という妖怪を追い払うために始めたとする説(南都年中行事),農村で一般に行われる春先の枯草焼きの習慣の伝統とする説がある。春季になると一帯では谷間に鶯の鳴く声が聞こえたことから,「夫木抄」では「今もなほ妻やこもれる春日野の若草山にうぐひすの鳴く」(中務卿親王)と歌われ,また「宇津保物語」においても「すたつともみゑぬものから鶯の山のいろいろふみも見るかな」とある。頂上に鶯塚古墳があることから鶯山の別名もある。同古墳は前方後円墳で全長103m,前方部の幅約50m,後円部の径約61mで,墳丘は2段に分かれる。清少納言の「枕草子」に「うぐひすの塚」と記されているのが同古墳であるとして,江戸期に東大寺の僧によって建てられた「鶯塚」の碑が後円部にある。内部の構造は不明であるが,埴輪などが出土し,付近には陪塚とみられるいくつかの小墳丘がある。山頂からは奈良市街のみならず,金剛生駒国定公園の山々,奈良盆地および京都山城地方が一望できる。入山期間は4月1日~6月15日,9月10日~11月25日,正月三が日で山頂までは徒歩で簡単に登れる。裏山側からは新若草山自動車道が通じている。山麓には旅館・土産物店が並び,手向山八幡宮,東大寺二月堂・三月堂も近い。山焼きは冬の奈良の重要な年中行事である。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7170149