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紀伊山地
【きいさんち】


紀伊半島の大部分を占める壮年期の曲隆山地。西南日本中央構造線以南の外帯にあり,山地域は中央構造線を底辺として,三角形状に南方に突出する。全体として中央部が高く縁辺部に向かって次第に低くなり,西に紀伊水道,東に熊野灘の陥没帯があり,四国および東海地方と隔てられる。中央構造線の断層谷を紀ノ川が西流する。地質構造は,北から三波川帯・秩父累帯・日高川帯・牟婁(むろ)帯が東西方向に帯状に配列されているが,地形構造は必ずしも単一ではなく,東西方向,南北方向,南西~北東方向が混じる。山系・水系を総合して大きく分けると,西部(和歌山県の大半),中央部(大部分は奈良県),東部(大部分は三重県)に3区分できる。東部および西部山地は,ほぼ東西方向,中央部はほぼ南北方向に山脈が連なる。中央部の大峰・台高・紀和の3山脈は,近畿地方内帯の鈴鹿方向(南北性)の山地の延長にあたるものと考えられる。紀伊水道に面する西部山地は,御坊萩構造線を境として,古生代・中生代地質からなる紀北山地と,新生代の紀南山地に区分できる。竜門・梨子ノ木・長峰の古生層山地と,白馬・果無(はてなし)の中生層山地とは,ほぼ東西方向に北から南に並立する。竜門山脈の主峰竜門山(756.6m)は結晶片岩中に,蛇紋岩の露頭が残丘状にそびえ,和歌山市の虎伏城山や和歌浦・雑賀崎(さいかざき)の海食崖は山脈の西端に当たる。梨子ノ木山脈の主峰高野山は紀ノ川と有田(ありだ)川の分水嶺をなし,山頂平坦面が広く存在する。長峰山脈は貴志川と有田川の分水嶺となり,800~900mの山頂平坦面を持つ。白馬山脈は有田川と日高川の分水嶺をなし,護摩壇山(1,370m)付近から白馬山(957.3m)付近までは1,000m以上の高度を保ち,波状嶺の特色を示す。また穿入蛇行の多い紀伊山地の河川の中でも,日高川は特に,曲流が発達している。果無山脈は熊野川岸から西走し,奈良・和歌山県境から,日高・西牟婁両郡の境を連ね紀伊水道に至る東西80kmの長い山脈で富田(とんだ)川・日置(ひき)川の水源地帯となる。紀南山地は紀北山地に比べて山脈の走行が明瞭でない。会津川・富田川・日置川は北東から南西の方向に流れ,その間に果無山脈から分かれた支脈が,河川に並行してほぼ南西に連なり,千丈塩津山地・大塔(おおとう)山地・峰山山脈・熊野山地に分けられる。那智高原・大雲取山からなる熊野山地は熊野酸性岩からなり,この岩層は東西42kmにわたる。火成岩の少ない石英粗面岩で構成され,その裂線に沿って勝浦・温川(ぬるみがわ)温泉が噴出する。また,那智の滝は熊野酸性岩と熊野層群(新第三紀層)の接触点にある133mの瀑布で,西牟婁郡串本町の橋杭(はしぐい)岩と呼ばれる岩塔列は,牟婁層群の頁岩中に貫入した石英粗面岩の岩脈が海食で洗い出されたもの。中央部山地は奈良県吉野郡にあり,吉野山地ともいう。東から台高山脈・大峰山脈・紀和山脈が3列に並び南北に連なる。六甲変動と関係があり,台高山脈は鈴鹿山脈,大峰山脈は大和高原,紀和山脈は金剛山脈の延長と推定する説もある。大峰山脈は近畿の屋根とも称され,大和アルプスの別称がある。最高峰八剣山(1,915m),仏生ケ岳(1,804m),山上ケ岳(1,719m)など,1,500~1,900m級の高山が背骨状に連なる。多雨地帯であることから浸食によって深い渓谷が形成され原生林が多い。地質は北部は古生層,南部は中生層が基盤をなし,その中を大峰酸性岩類に属する石英斑岩が細長く分布し,奈良県天川(てんがわ)村大字洞川,柏木付近には石灰岩が挟まれ鍾乳洞が発達する。山脈の東斜面を北山川,西斜面を十津川(和歌山県下では熊野川)の本支流が下刻する。穿入蛇行が激しく,環流丘陵・ポットホール(甌穴)が多い。台高山脈は,奈良・三重両県の県境を,大台ケ原山から北の高見山に連なる山脈である。紀ノ川の水源となる大台ケ原山(1,695m)の山頂には,準平原遺物といわれる広い山頂平坦面がある。南斜面は年間雨量4,000mmを超える最多雨地域で,北山川の支谷東ノ川によって深く削りとられて,滝と絶壁の大蛇嵓(だいじやぐら)がある。紀和山脈は和歌山県と奈良県の境を南北に走る。護摩壇山・鉾尖岳(1,319.2m)・牛廻山(1,207m)・伯母子岳(1,342m)があり,南端の和田ノ森(1,049m)で果無山脈と逆T字形に会合し,山頂には小平坦面が多く尾根伝いに縦走路が開け,日高川の水源地域となる。東部山地は主として三重県内の紀伊山地をいう。中央部山地の南北方向に対し,ほぼ東西方向をとり,南部の海岸に近い地域では,海岸線に並行して,北東~南西方向に走る。紀勢山地は台高山脈の東斜面に続き,古ケ丸山(1,211m)・竜頭山などがある。紀ノ川(上流は吉野川)・貴志川(紀ノ川の支流)・有田川・日高川・富田川・日置川・古座(こざ)川・熊野川(上流は十津川・北山川)・櫛田川・宮川など,山地中の各山脈をぬって流れる河川には,次のような特色がある。穿入蛇行谷が多く,ことに四万十帯を流れる有田川・日高川・日置川・熊野川・古座川は蛇行帯の規模が大きい。穿入蛇行谷には環流丘陵・ポットホールも多い。また流路延長に比べて流域面積が小さく,平野・沖積地・河岸段丘が狭い。破砕帯・地滑り地帯を流れる部分もあり,集中豪雨があると,群発性急性型地滑りが,起こりやすい。明治22年8月の十津川災害は,有史以来わが国最大の山地災害といわれ,昭和28年7月の有田川,日高川水害にも大きな災害を起こしている。水源地は日本における最多雨地域で,河川の流水量が多く,熊野川・日高川・有田川・吉野川では水力発電が多い。紀伊は「木の国」とも称されるように豊富な森林資源に恵まれ,高野マキなどの,高野六木の保護もあり,今日でも広く原生林が残る。吉野材・熊野材など良質の用材の生産,紀南の硬質なウバメガシによる木炭生産や,温暖な気候に基づく有田川・紀ノ川流域の温州ミカン,南部(みなべ)川流域の梅の生産などが知られる。吉野金峰山・高野山・熊野三山など宗教的聖地も多く,そこに至る参詣道,修行路も古くから発達した。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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