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大山?
【だいせん】


県西部,日野郡江府(こうふ)町・溝口町,西伯(さいはく)郡岸本町・淀江町・大山町・名和町・中山町,東伯(とうはく)郡赤碕(あかさき)町・東伯町・大栄町・関金町・倉吉市と岡山県真庭郡にまたがる山。中国地方の最高峰で三角点の置かれている主峰弥山(みせん)は標高1,711m,最高峰は東寄りの剣ケ峰で標高1,729m。古くは大神岳(火神岳)ともいい(出雲国風土記),独立峰としての美しさは伯耆(ほうき)富士・出雲富士とも呼ばれる。白山火山帯に属し,複式の火山形態を示す死火山で山体主峰はトロイデ型に分類される。広義の大山系の山々は船上山・勝田ケ山・矢筈ケ山などの外輪山を含み,新世代第四紀の洪積世前~中期の火山活動で形成したといわれる。弥山・三鈷峰などカルデラ内の中央火口丘を中心とし,山麓に分布する大小の寄生火山を含む狭義の大山は,約3万年前の洪積世中~末頭の火山活動で形成されたとされている。地質は大部分が安山岩とその砕屑物からなり,頂上の弥山を中心とした東西4kmの陥没カルデラは黒雲母角閃石安山岩からなり,浸食が激しい。北の日本海まで広く裾野が伸びているその秀麗な姿は,古来より人々の篤き信仰の対象ともなり,「出雲国風土記」には八束水臣津野命の国引きの際,大山を杭に,夜見ケ浜(弓ケ浜)を綱にし保崎(島根半島)を引き寄せたという神話がある。古代の山岳信仰が高まるにつれ,多くの山伏達が入山したと思われ,開山については役行者が弥山を開いたと伝えられている。日本九峰の1つに数えられた大山は修験の道場として広く知られ「大山寺縁起」は大山寺の開基を養老年間としているが,山岳信仰の仏教化が進み神仏習合が整うにつれ,平安期には大智明権現(地蔵菩薩)を信仰の中心とした天台宗寺院としての大山寺が草創されており,西明院・南光院・中門院を中心に40数院を数えたという。またこの頃には現在の奥宮の地に大神山神社も造営されており,「延喜式」に見える式内社であった。大山寺の繁栄は平安期の寛治8年に衆徒300人が都に上洛強訴したことからもうかがえるが,多くの僧兵を抱えた一大勢力であった。大山には金門・賽の河原・三鈷峰・宝珠山・擬宝珠山など当時が偲ばれる仏教用語の地名が数多く残っている。霊場としての大山が諸国に知れ渡るとともに,庶民の間にも大山寺への山詣が広まっていったと思われる。江戸期の慶長の頃,幕府に上申して寺領3,000石を獲得した座主豪円が参詣路に植えさせたといわれるクロマツの並木が残っている。享保年間から開催された大山の牛馬市は,庶民の大山詣りに拍車をかけ,文政2年の「やつれみのの記」には,中国・四国の13か国から人々が集ったと記されている。各地から大山寺に通じる道は大山道と呼ばれ,大山寺を中心に放射状に広がっているが,溝口(溝口町)・尾高(米子市)・佐摩(大山町)からの3本の大山道には,享保年間から作られだした一丁地蔵が今も残っている。明治期の大山の牛馬市は日本随一といわれ盛況を呈した。大正15年の大山口駅の開通,昭和10年の米子~大山寺間の定期バスの開通により,登山者が漸増し,昭和11年の大山隠岐国立公園の指定を受けて以来,四季を通じて利用される観光地大山の新しい歴史がスタートした。主峰弥山には頂上小屋があり,夏期には売店・電話も完備し,やや下方にある地蔵ケ池・梵字ケ池の2つの小池の冷たい清水が,かつては登山者をなごませていた。弥山から東へ尾根筋に剣ケ峰・天狗ケ峰・象ケ鼻を経てユートピア小屋から三鈷峰へ至る縦走路と呼ばれる難路が続くが,この道は浸食崩壊が著しく,両側は北壁・南壁と称される絶壁となっており,これらの急崖はロッククライマー達の目標となっている。大山の自然は神霊の鎮まる山,霊地として保存されてきたため原生のままの姿が残されているが,海岸から頂上まで1,729mの標高差を持つため,気象条件に伴う変化ある動植物相が構成されており,貴重な資料を提供している。植物相では下から広葉樹林帯―落葉喬木林帯―低木草本帯―草本帯となっており,600~1,300m前後の落葉喬木林帯はブナ・ミズナラなどが多く,1,000m前後はブナの純林帯となっている。また高山植物も多く,大山特有の植物も多いが,特に頂上付近に群生分布しているダイセンキャラボクは,国の特別天然記念物であり,県の木ともなっている。動物相では森林を背景とした豊富な鳥類や,1,000種を越える昆虫が確認されているが,鳥類については近年その数が激減しつつあるという。昆虫では,北方系・南方系・大陸系や,高山性の種も入り混り,大山特産の種も多いという。昭和38年,隠岐・島根半島・三瓶山を加えて大山隠岐国立公園となり,山陰観光の1つの中心として年間250万人の観光客を集める大山は,自然の美しさに加えて大山寺,東側中ノ原・上ノ原・豪円山のスキー場,西側の桝水高原や南部の鏡ケ成高原といった観光拠点を持ち,鏡ケ成の国民休暇村・大山寺の宿坊などの拠点を結ぶ整備された道路網により,県下観光地のトップを占めているが,その反面,自然保護とその対策が急がれている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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