100辞書・辞典一括検索

JLogos

11

氷ノ山
【ひょうのせん】


八頭(やず)郡若桜(わかさ)町東部,兵庫県境にある山。標高1,510m。大山(だいせん)につぐ中国地方第2位の高峰。「ひょうのやま」ともよばれた。山名は最初5万分の1地形図において,山頂を氷ノ山としたものの,後に鳥取県からの申し入れによって須賀ノ山と改め,氷ノ山は氷ノ山越北方のピーク(赤倉山などとよばれる)に記されて近年にいたった。しかし,一般には氷ノ山とよばれることが多く,特に第2次大戦後スキー・登山などが盛んになり,国定公園の名称にも冠せられるにおよんで,主として関西の山岳団体等より名称変更が要望され,昭和51年発行の地形図から氷ノ山に改められ,須賀ノ山は別名として併記されることとなった。氷ノ山の山名については樹氷の「ヒョウ」とする説もあるが,「因幡志」では「ヒョウ」を「豹」と記し,「日枝」の誤記と注記されており,「氷」の意とは考えがたい。峠の神のしるしである「標」にかかわるものではないかという見解があるが,これは山の最高地点をえらんで特に名づける慣習のなかった近代以前においては,氷ノ山の名は伊勢参道の峠である氷ノ山越付近をさしていた可能性があるからである。広く緩傾斜の長大な尾根が西・南・東に延び,その広がりは鳥取・兵庫両県にわたり東西20kmにおよんでいる。なだらかな稜線部に対し,山体を浸食する谷はいずれも各所で岩壁(赤倉など)・露岩・瀑布等になってあらわれている。山頂には一等三角点が設置され避難小屋もある。広大な山域をブナ原生林が埋めていたが,第2次大戦後の伐採によってその面積を大幅に減じた。現在は舂米川上流の北西面と,大屋川・引原川上流の南東斜面にまとまって残存し,かなり良好な状態を保っている。山頂より二の丸(1,463m)へかけての稜線部はチシマザサ群落を主体とし,キャラボクや天然スギの混在する風衝植生が発達し,高山らしい景観を呈している。山頂のすぐ近くには,本州中部山岳に見られる池塘の南限的痕跡ともいえる古生沼(こせいぬま)という湿地があり,兵庫県により天然記念物に指定されている。中国山地の中ではぬきんでた標高を有することもあって,植物には亜高山性のもの,南限となるものなど重要な種の自生が知られコケモモ・ツバメオモト・ツマトリソウ・エゾリンドウ・コキンバイ・ヒョウノセンカタバミ・オオダイトウヒレン・ウスゲタマブキ・チョウジギク・タマガワホトトギス・アラゲヒョウタンボク・ウスユキソウ・オニシモツケなどの植物景観を楽しめる。山域一帯にはツキノワグマが生息している。鳥類は森林性のものを主体にファウナは豊かで,ホシガラス・カヤクグリ・クロジ・メボソなど亜高山性の種も生息し,近年有名になったイヌワシ(国の特別天然記念物),クマタカなどの大型種も営巣している。戦前は豊かな積雪によってもっぱら山岳スキーの場として著名で,西面山麓の舂米地区にある崖錐部の採草地は現在スキー場として整備され,関西における有名ゲレンデの1つとなった。ユースホステルや旅館も建設されているが,後発した兵庫県側に較べると観光地としてはあまり発展していない。登山道は鳥取県側からは,舂米より仙谷と氷ノ山越を通るものと2コースあり,近年は主として関西方面からの登山者が四季を通じて多い。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7176663