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満奇洞
【まきどう】


新見市豊永赤馬字槙の山腹に開口する吐出穴(石灰洞)。昔,狸を追った猟師が発見したといわれ,阿哲台の観光洞としては最も早く開発され,昭和初期にはすでに他府県にまで知られていた。槙という集落にある洞窟なので槙の穴と呼ばれていたが,昭和4年10月歌人与謝野鉄幹・晶子夫妻がこの地を訪れ,奇に満ちた洞窟ということから満奇洞と命名した。複雑な閉塞型の平面に発達した横穴で,断層裂罅に水が浸透して形成されている。洞口は人工的に拡張されたもので高さ4m,幅1.5mであるが,もとの洞口はそれより小さかったと思われる。総延長は約450m,最大幅は25mで,二段階構造をもつと推定される。洞口のホールを抜け,二次生成物の発達した狭い部分を通過するとわが国屈指のリムストーンが見られる。リムプールの発達も著しい。満奇洞最大のホールは竜宮・夢の宮殿であり,無数のつらら石・カーテンがすばらしい景観を見せる。夢の宮殿は断層が交差した場所であり,断層の鏡肌・断層角礫をはっきりと見ることができる。洞内には停水があるが,流水はない。満奇洞は老年期の鍾乳洞であり,次第に活力を失いつつあるが,二次生成物の形成は極めてよく,カーテン・つらら石・リムストーン・鍾乳管・フローストーン・石柱のいずれもみごとである。また小さいながらも,曲がり石・洞窟サンゴもあり,およそ石灰洞として考えられる二次生成物はすべて存在している。天井は,地下水面の不安定な時期に形成された断層などの割れ目に沿う高い天井と,安定水面により形成された平たい天井とがある。高い天井は夢の宮殿から奥の場所に見られ,断層・節理に流れる水により,洞窟形成の初期につくられたものである。一方,平たい天井は土地の隆起・沈降など地殻変動の少ない地下水面安定期に形成されたもので,天井は水面に接しているため二次生成物は形成しにくい。しかし側方浸食は極めて活発であり,ノッチ(溶食溝)が洞内の各所に見られる。天井までの高さは,洞口の水準を0mとすると,1.5m・2.5m・3.5m・5.5~6.5mの5段階である。安定水面においては高い天井ほど古い時代に形成されたものであり,次第に水位が低下していく過程で,現在の満奇洞へと変容していった。晶子の歌に「まきの洞ゆめに吾が見る世の如く玉よりなれる殿つくりかな」と詠まれている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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