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上郡
【かみごおり】


北方(きたがた)地方のうち吉野川中上流の美馬・三好両郡地方を指し,阿波・麻植(おえ)両郡より下流の下郡に対する汎称。地形的には,麻植郡山川町の船戸(左岸)と阿波郡阿波町の岩津(右岸)を結ぶ以西は,吉野川平野が狭い盆地状の河谷平野となっており,特に右岸の讃岐山脈南麓には河岸段丘(洪積台地)と扇状地が発達している。県西北端で,吉野川を上流へさかのぼる地帯であるゆえか,「そら」(空の意)と俗称されることがある。地名の初見は正平7年3月21日の「小野寺氏文書」の「於上郡御軍忠之由承及候之条,目出度候」であり(徴古雑抄),南北朝期の記録である。また江戸末期の天保13年に発生した上郡を中心にした百姓一揆については,名西郡上山村粟飯原文書の「天保庄屋日暦」に「上郡動乱」「上郡騒動」とあり,一名煙草騒動といわれる山間農民の煙草裁判役の廃止や新税撤廃を要求しての打毀を伴う百姓一揆は上郡の名をもっとも意識させることとなった事実である。この一揆にみられるように藩政期より水利条件に恵まれぬため,葉煙草・桑・雑穀(ソバ・トウモロコシ・キビ・アワ)等の畑作が中心であり,これに藍作が加わっていた。このため上郡地方の役牛は讃岐山脈の猪ノ鼻峠・東山越・真鈴峠・三頭越・相栗峠などの峠を越えて讃岐の綾歌・仲多度・三豊3郡の水田地帯に夏秋2回出稼ぎさせる習慣があり,牛が帰ってくる時,各4,5斗の米を礼として背負ってもどるので上郡では米牛,また米取牛,讃岐では「かりこうし」(借耕牛)といって大切にされた。剣山地北斜面の祖谷(いや)川・松尾川・貞光川・穴吹川流域に広がる山村では集落や耕地が地滑り地帯に立地しているため,台風や集中豪雨時による土石流,地滑りなどの災害を受けることが多く,昭和51年9月の台風17号に伴う集中豪雨により美馬郡の木屋平(こやだいら)村・一宇村を中心に大きな被害が出,平地部への挙家離村も発生した。交通面では吉野川左岸沿いに走る国道192号と右岸沿いの主要地方道鳴門池田線が各々徳島市・鳴門市から愛媛県川之江市と三好郡池田町まで延びており,大正3年開通の国鉄徳島本線と昭和10年開通の国鉄土讃本線は阿波池田で交差し,三好郡の中心都市池田は四国交通の要所として香川・愛媛・高知3県との結びつきが強く,近年は「四国のへそ」と称している。美馬郡の中心都市脇町は藩政期,徳島藩筆頭家老稲田氏の脇城を中心とする城下町であり,その後在郷町となり農村の商業都市としてにぎわい,明治期以降も郡役所が置かれ,現在も各官庁の出張所が置かれる。昭和40年池田町上野に池田ダムが完成,香川用水による香川県への分水が始まり,吉野川北岸農業用水も昭和59年に三好・美馬の上郡地方から阿波郡までを潤し,水の不便が解消された。農業は米・麦のほかに山間部の煙草,山麓河岸段丘・扇状地を中心に養蚕,八朔栽培,そしてブロイラー養鶏,最近入りはじめた施設園芸などであり,商業は池田町,脇町と美馬郡貞光町に大規模小売店が集中しており,工業については池田の日本煙草製造株式会社や脇町の松下寿電子などの大企業がある。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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