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滑床渓谷
【なめとこけいこく】


宇和島市と北宇和郡松野町にわたる渓谷。鬼ケ城山の東斜面に源を発し,北に高月山,南に八面(はちめん)山・三本杭がそびえ,深山幽谷の景観をなす。渓谷は長さ約12kmに及び,標高900mから300mあたりまでの間を流れ下り,高度差が大きい。渓谷美は,江戸期から知られ,文化年間和泉の国学者,矢野守光の「滑床紀行」に記されている。渓谷はほぼ全域花崗岩からなり,中生代四万十層群の中に,新生代新第三紀に貫入したものである。一枚岩の巨岩や,河床全体が平滑な岩肌となっているナメリ床,また一枚岩の岩肌を布状に水の落下するナメリ滝などが本・支流沿いに多いが,これらはいずれも花崗岩特有の浸食作用によるものである。滑床の地名はナメリ床に由来する。奥千畳,三のなめり,千畳敷,出合なめりなどは前者の例であり,雪輪の滝は後者の例である。雪輪の滝は,花崗岩の一枚岩が約35°に緩傾斜し,そこを渓流が雪輪を描いて布状に落下する。露出する岩盤の幅は20m,長さは80mにも及び,ナメリ滝の最大のものである。滑床渓谷最大の景勝地で,夏は渓流に遊ぶ観光客が滝滑りを楽しむ。出合なめりの北側にある霧が滝は高さ35mの懸崖にかかる滝で,落下する水が途中の岩に突き当たって霧しぶきとなっている。ほかに渓谷中の興味地点としては,鳥居岩と万年橋の碑があり,鳥居岩は2つに割れたホルンフェルスの巨岩の上にほかの扁平な岩がかぶさって鳥居状になっている。万年橋の碑は,天保11年宇和島から梅ケ成峠を越えて目黒に通ずる旧滑床林道が開通し,目黒・滑床方面の物資の輸送が便利になった由来を記したもので,碑文は橋のたもとの巨大な自然石に刻まれ,その文ならびに書は,幕末の勤王僧として有名な金剛山大隆寺の僧晦巌のものである。渓谷沿いと谷の南斜面は天然林であり,低地にはシイ・クス・イス・サカキ・ツバキ・カシ類などの暖帯性植物が,また中腹から上にはモミ・ツガ・ミズメ・ヒメシャラ・イロハモミジなどの温帯性植物が繁茂する。渓谷の左岸に通ずる滑床林道から北側の斜面はスギ・ヒノキの人工林が美林をなしている。渓谷内の動物では,昭和35年餌づけされた野猿が有名である。ほかにイノシシ・シカ・ツキノワグマなどの生息も確認されている。昭和初期にはカモシカもいたといわれている。渓谷一帯は,昭和35年県立自然公園に指定,次いで同39年には足摺国定公園に編入,さらに同47年には足摺宇和海国立公園に指定された。また付近一帯は国有林で,同46年高知営林局が767haの面積を滑床自然休養林に指定している。同49年以降は鳥獣保護区(特別地区)にもなっている。南予地方有数の観光地で,夏はキャンプ場,秋は紅葉狩でにぎわう。宿泊施設としては,昭和31年に建設されたユースホステル万年荘がある。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7202500