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四万十川
【しまんとがわ】


渡川水系の本流。1級河川。四国南西部を流域とする。幹線流路延長は196.0km。渡川とも呼ばれる。高知県第一の大川で,その流域は高知県高岡郡・幡多郡・中村市・宿毛(すくも)市・愛媛県北宇和郡の2県3郡2市に及び,流域面積2,270.0km(^2)のうち,山地1,980.0km(^2)で,平地はわずか270.0km(^2)に過ぎない。源流を不入(いらず)山(1,336m)の東斜面に発し,高岡郡窪川町窪川付近まで南流し,この付近で土佐湾に接近するが,西に向きを変え,嵌入曲流しながら幡多郡大正町田野々で,最大の支流である檮原(ゆすはら)川を合流する。さらに西に進み,同郡西土佐村江川崎で,愛媛県南西部を流域とし,南東に流れてきた吉野川をあわせ,向きを南南東に変え,さらに愛媛県の宇和山地から発する目黒・黒尊の両支流をあわせながら,下流部の中村市市街地北部で南流してきた後川と接近,角崎で合流する。角崎から河口に至る間は溺れ谷地形を呈する。さらに宿毛市から発し中筋地溝帯を蛇行東流してきた中筋川を実崎(さんざき)で右岸にあわせて下田に至り,土佐湾に注ぐ。四万十川流域は地質構造のうえで西南日本外帯に属し,水源地帯は秩父帯に属すが,流域の大部分は地質学上の四万十帯。流域の大部分を占める山地は,北部の秩父帯のように地質構造線に沿う東西性の秩序をもった山地ではなく,四万十帯に属する幡多山地と呼ばれる比較的低い山地が,まとまりをもたずに広がり,その間を網目のように支流がはりめぐらされている。平地に恵まれず,下流の中村平野,窪川付近の高南台地,広見川流域の鬼北盆地,各所に散在している狭小な氾濫原などを加えても,平地は全流域の約12%にしかすぎない。流域は北に高峻な四国山地を背負い,南は黒潮に洗われているために気温も高く雨量の多いのが特色で,全国屈指の多雨地域である。年平均気温は,下流の中村市(標高9m)は16.6℃,中流の大正町(標高160m)は15.8℃,上流の檮原町(標高410m)は13.6℃と異なる。降水量は,上流の船戸(東津野村)で年平均3,000mmを超え(最多年降水量は昭和29年の5,176.5mm),中流の大正で約2,800mm,愛媛県側の広見川流域の好藤では1,900mm前後で,東部の上流が最も多く,西部の広見川流域との差は大きい。下流部の中村市具同における水理状況は,豊水流量毎秒99.09m(^3),平水流量毎秒50.32m(^3),渇水流量毎秒12.91m(^3),年平均流量毎秒118.75m(^3),年総量3,699.6×10(^6)m(^3)となっている。高水状況は,計画高水流量毎秒1万3,000m(^3)で既往最大流量は昭和10年8月29日の毎秒1万6,008m(^3),同第2は昭和38年8月9日の毎秒1万3,319m(^3)。ともに台風による洪水で,計画高水流量を大きく上回っている。計画高水位は10.863m,警戒水位6.5m,既往最高水位は昭和10年8月29日台風の11.338mである。四万十川は大規模な築堤に守られてはいるが,流量毎秒1万3,000m(^3)での年超過確率は27分の1である。河状係数は824で,治水・利水ともに難しい河川といえる。流域の87.3%にあたる1,980.0km(^2)は山地で占められ,高温多湿のため林相はおおむね良好で,上流部に国有林が多く,マツ・スギ・ヒノキ・ツガ・モミなどの森林や広葉樹林も多く,全体に水源涵養の役目を果たしている。四万十川は河口から後川合流点付近まで感潮域が広がっているため,魚などの種類が多く,確認された魚類は64種に達し,日本のいずれの河川よりも種類が多い。このうち純淡水魚は20種,海産魚26種で,これらのうちハクレン・アカメ・クロホシマンジュウダイ・イチマツハゼ・タネハゼなどは珍種である。そのほか,感潮域ではカキ・フジツボ・クジャクガイなどの生息もみられ,天然のスジアオノリと養殖のヒトエグサの生産量は日本の河川の中で首位を占めている。アユ・ウナギなどの漁獲量は日本の主要河川中,10位前後で,魚類と藻類の生産量の多いことが特徴である。河川交通は陸上交通の発達が遅れた当流域では重要で,唯一の輸送路であり,筏流しと川舟(帆掛舟)による木炭などの運搬は昭和初期まで盛んであったが,自動車交通の発達と流路の変化が相まって,第2次大戦後には姿を見せなくなった。河川定期航路として,大正11年頃から昭和2年頃まで中村~江川崎間をプロペラ船,また昭和28年頃短期間ではあるが,下田港~後川佐岡橋間の巡航船の運行をみたこともある。中筋川も明治33年県道が開通するまでは幡多郡三原村や宿毛市東部,中村市西部の米や木炭の運搬に利用されていた。水力発電は,津賀(1万7,000kw)・佐賀(1万5,000kw)・松葉川(320kw)・檮原第一(1,550kw)・檮原第二(6,000kw)・檮原第三(2,580kw)などの発電所があるが,ダムも少なく,未開発のまま残され,上水道も中村市と窪川町で,日量1万6,800m(^3)を取水するほかは,簡易水道が川筋にわたって設けられている程度で,利水の中心は農業用水といえる。計画的な農業用水は,江戸期に土佐藩奉行野中兼山が,後川の麻生堰および後川の支川岩田川のカイロク堰を設けたのが最初といわれている。現在渡川水系における灌漑面積は5,667.3ha,取水量は毎秒5.2461m(^3)であるが,ほとんど慣行水利である。四万十川の上流地域は林業と結びついた農業に特色がみられ,現在では製紙原料の楮・三椏,トウモロコシに代わって茶・栗・シイタケなどの栽培がみられる。浸食が進んだ低地の開ける高南台地は,仁井田米と称する良質の米作地。国鉄土讃本線終着駅窪川で,国鉄中村線と分かれた国鉄予土線に沿った中流部の幡多郡大正町・十和(とおわ)村・西土佐村は北幡と称され,曲流する谷も深く,林業を主とし,栗・桑・シイタケ栽培を中心とした農業が盛んである。この地域の森林には県鳥のヤイロチョウが生息している。四万十川は中村市佐田付近から中村平野に入ると,西からの中筋川,北東からの後川をあわせ,大堤防に囲まれた景観がみられ,洪水の常襲地帯でもある。平野の中心,中村市街地の歴史は古く,応仁2年京都から下向した一条教房の居所を中心に発展した町であるが,たび重なる洪水と昭和21年の南海大地震による破壊で,昔のたたずまいはほとんどなくなった。しかし,現在も県南西部の行政・経済・文化の中核都市としての役割を担っている。河口付近は川幅も1kmと広く,ゆったりとした水郷風景は,土佐を代表する風景の1つ。高知新聞社選定の,土佐の風景ベスト10にも選ばれている。河口には一条氏時代からの歴史をもつ下田港があるが,砂嘴の形成による河口閉塞に常に悩まされ,近代的港湾としての条件に恵まれていない。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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