100辞書・辞典一括検索

JLogos

14

人吉盆地
【ひとよしぼんち】


九州山地の南部,球磨(くま)川の上流域にある北東から南西に長い紡錘形の盆地。人吉市をはじめ,球磨郡球磨村・山江村・相良(さがら)村・錦町・免田町・深田村・須恵村・上村・岡原(おかはる)村・多良木町・湯前町・水上村にまたがる。中心は西の人吉市,東の免田町・多良木町。面積72km(^2)。盆地底の標高は100~200m。東の市房山山系は鋸尾根を連ねる早壮年期の地形。南西の人吉南部一円は肥薩火山群の溶岩に覆われ,矢岳・田野の高原をつくる。南東から南西の白髪岳山系の分水界は平頂で,九州平・万年青平(おもとでら)などがある。延岡紫尾山構造線にあたる白髪岳断層は上段のところどころに断層階を形成し,槻木(多良木町)・皆越(上村)・段塔(人吉市)などの集落がある。また山脚には断層崖が配列し,東から南回りに湯前(湯前町),久米(多良木町),宮原(岡原村),神殿原・下原(上村),一武・西村(錦町)の各扇状地が発達する。これらの大扇状地は隣接して複合扇状地を形成し,球磨川を北西の台地崖下まで遷移している。この扇状地の扇頂部を幸野溝,扇央部を百太郎溝が貫流しており,免田川流域には新たに開析扇状地が延びている。北東から西の五木山系は川辺川・万江(まえ)川が穿入蛇行して南下し,幼年期地形の山頂にはまだ原面を広く残し,端海野(たんかいの)には準平原遺物もある。五木山系前面には阿蘇や加久藤の火砕流堆積物が礫層を載せて丘陵・台地(古扇状地)を形成する。川辺川はこの隆起で河川争奪が起こり,流路を変えた。また丘陵化した古扇状地の前面には新しい扇状地が発達し,山江村においてそれが顕著である。盆地中央を球磨川が流れ,氾濫原が帯状に延び,ところどころに河岸段丘をつくっている。球磨の開発は交通と灌漑の歴史で,第1期は鎌倉期,相良氏入国後の外部ルートの開発,第2期は江戸期の元禄年間,球磨川開削と百太郎溝・幸野溝の完成による開田増収,第3期は明治・大正期,肥薩線・湯前線の開通による用材・薪炭の搬送,第4期は昭和30年代,市房ダム完成と百太郎溝・幸野溝の改修・延長工事。これによって南岸一帯はほぼ全域が灌漑可能になった。現在,次の開発として川辺川ダムと九州自動車道に着工している。農業生産は煙草・藺草からメロン・茶・肉牛へと生産の伸び率が推移している。米以外の主要作目は,東部が煙草・藺草,西部が肉牛・メロン,北部台地が茶・肉牛・酪農,周辺の山間部では茶にナシかクリの組合せが多い。工業では伝統の製材業が衰退し,特産の球磨焼酎が急増,誘致工場は先発の繊維工業が規模縮小するなかで,軽電機やIC工場が進出している。観光は,人吉温泉・球磨川下り・球泉洞に加えて,市房山の自然探勝と上球磨の史跡探訪が脚光を浴びている。交通は盆地を貫流する球磨川と並行に湯前線と国道219号・445号が東西に走り,国道221・267・446号が南北に走る。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7227344