100辞書・辞典一括検索

JLogos

27

浦内川
【うらうちがわ】


西表(いりおもて)島中央部を流れる河川。西表島西部の方言では河口付近をカトゥラミナトゥ,河口より少し上流の辺りをウラダミナトゥといい,中流域はイナバカーラと呼び分けていて,この川全体を表わす方言はない。河川延長18.80km・流域面積54.24km(^2)で,琉球諸島の中では最長で,最大の流域面積を有する。西表島北東部の山麓に源を発し,多くの支流を合わせて北西に流れ,竹富(たけとみ)町上原の浦内集落の西で海に注ぐ。河口付近の川幅は約300mあり,そこから上流11kmの地点まで溯航が可能で,30t級の船でもおよそ10kmまでさかのぼることができる。河口から15.5kmは2級河川の指定を受けている。流量も大きく,集中豪雨のあとで毎秒60tという値が記録されたことがある。河口付近には,方言でウブミナトゥ(大湊)と呼ばれる,約117haの広がりをもつマングローブ帯が分布し,干立(ほしたて)集落にかけて広がるマングローブ帯と合わせると,その総面積は145haにも達する。両岸には亜熱帯の原生林が広がる。イナバヌエーラと呼ばれる船着場には軍艦石と俗称される岩があって,この地点から上流は潮の満干の影響を受けない渓流となる。西表島西部では河川の感潮域をミナトゥ,潮の影響を受けない渓流をカーラと呼んで区別している。この両者の接点が船着場になることが多いが,この接点のことを方言ではエーラと呼んでいる。浦内川という名称は河口の東側にある浦内集落に由来するものと考えられる。カトゥラは右岸の河口付近に広がる浦内集落の水田地名に由来する。川沿いには水田が多く分布しており,ウラダとは浦内川沿いにある干立・浦内両集落の水田地帯の総称である。ウラダに属する水田として右岸には下流からウタラ・タカピシ・タダラ・ウムトゥ・メバラ,左岸には下流からシキト・シマドゥ・シンマタ・ウブドゥなどの地名が分布しているが,現在はいずれの水田も放棄されている。ウラダは干立集落の人々にとって最も大切な水田地帯であった。浦内川の方言名の1つイナバカーラは,旧稲葉集落より上流を指す言葉で,この上流域は神の宿る非常に神聖な地帯であり,むやみに立ち入るものではないとされてきた。干立集落に伝わる伝承によると,昔の河口は現在の場所ではなく,干立集落の南のピサイミナトゥ(与那田川)に開口していたが,あるとき豪雨による大出水があって,現在の河口のところが切れたという。河口に屹立するアトク島が陸地から離れたのもそのときのことと伝えられている。昭和19年の洪水では稲葉の集落が全滅し,溺死者を出すという被害を出している。またタカピシの前の深みにはワニがいたという伝説がある。イノシシを狩りにいった男が村に帰る折にタカピシから対岸に泳いで渡る際,ワニを警戒して先にイヌを渡らせたところ,イヌは水中に引き込まれてしまったと伝えられている。長さ271.1mの浦内橋が昭和45年に竣工して,西表島西部の人々はそれまでの渡し舟に頼る生活から開放された。現在の浦内川は,川沿いの原生林と上流のマリユドゥの滝などを見るための観光船が多数行き来しており,仲間川と並ぶ西表島観光の名所の1つとなっている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7239965