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八重山諸島
【やえやましょとう】


先島(さきしま)諸島の西部に位置する諸島。明治期から八重山諸島あるいは八重山列島とも呼ばれた。「バジル・ホール探検記」「ペリー訪問記」にはパチュサン(Patchusan),ゴーヴィルの「琉球覚書」にはパションシャン(Pat-chong-chan),ベルチャーの「サマラン号の航海記」にはパチュサン(Pa-tshung-san)と記されている。那覇(なは)港の南西,海路約439kmに位置する石垣島を主島とし,北緯24°3′~25°25′,東経122°56′~124°20′の範囲にあり,有人島12・無人島20からなる。行政的には,石垣市(有人島1・無人島13)・竹富(たけとみ)町(有人島10・無人島7)・与那国町(有人島1)に属し,総面積は584.7km(^2)となり,県全体の約26%に当たる。有人島は石垣市の石垣島,竹富町の西表(いりおもて)島・波照間(はてるま)島・黒島・小浜島・竹富島・内離(うちばなり)島・新城(あらぐすく)島(上地島・下地島)・鳩間島・由布(ゆぶ)島,与那国町の与那国島の12島で,無人島は石垣市に属する尖閣(せんかく)諸島の魚釣島・久場島・南小島・北小島・沖の北岩・大正島・飛瀬・沖の南岩をはじめ,竹富町に属する外離島・嘉弥真島・小島・仲之御嶽(なかのうがん)島・アウ離島・大地離島・平離島・鳩離島・赤離島などがある。このうち,与那国島は日本最西端の島で,西方約170km海上に台湾が位置し,年に数度快晴時には台湾の中央山脈が望見できる。また波照間島は,有人島の中では日本最南端の位置にある。地学的に見ると八重山諸島は,太平洋と東シナ海を分ける琉球列島に大半が属するが,尖閣諸島だけは東シナ海の東海大陸棚にある。そのため自然地理上からは八重山諸島と尖閣諸島は区別されることが多い。また両者の間には,水深2,000m程の沖縄舟盆の陥没くぼ地が横たわっている。八重山諸島の島々を地形的にとらえると,山地を有する高島と,平坦な台地だけの低島に明瞭に区別される。高島は石垣・西表・小浜・与那国や尖閣諸島の島々で,低島は竹富・黒島・新城・波照間・鳩間などである。島の地形の相違は地質と密接に関連しており,高島は古生代~第三紀中新世の複雑な地質からなるのに対し,低島はすべて第四紀琉球石灰岩に覆われる新しい島である。石垣島の山地は,県内最高峰の於茂登(おもと)岳(525.8m)を中心に連なり,古生代二畳紀と考えられるトムル層(結晶片岩類)・中生代白亜紀の富崎層(チャート・砂岩など)・新生代始新世の宮良層(石灰岩・砂岩など)と野底層(安山岩質の凝灰岩など)のほかに,中新世の於茂登花崗岩類で構成される。小浜島の大岳も同様の地質からなるが,西表島と与那国島の山地は中新世の八重山層群の砂岩・泥岩からなる。特に西表島西部地域は,八重山夾炭層という薄い石炭層を挟み,明治期から第2次大戦前まで石炭の採掘が行われた。尖閣諸島にも八重山層群が認められるが,魚釣島の一部は第三紀火山岩から,久場島は第四紀火山岩からなる火山島である。なお,八重山諸島には火山活動はないが,昭和初期に西表島沖の沖縄舟盆で海底火山の噴火があり,大量の軽石を放出したことが知られている。また,竹富島沖には海底温泉が湧出しており,火山性温泉の可能性をもっている。一方,低島は地質的には第四紀更新世中期以降の琉球石灰岩からなる。しかし,波照間島だけには,石灰岩の下に第三紀島尻群層のクチャ(泥岩)があり,沖縄本島中・南部や宮古諸島と同質の地質条件を有している。山地の地形は地質条件によって左右され,石垣島の花崗岩や結晶片岩などの山地では,従順な開析の少ない直線的斜面をもち,高度を減じるに従って,番名岳・屋良部岳のように孤立山塊をなす。また山塊に巨岩が堆積した緩斜面を発達させるのも,県内ではほかに例のない特徴で,これは火成岩・変成岩類の地質と熱帯的な風化条件に起因すると考えられる。なお,野底岳の特異な形は火山溶岩の差別浸食の地形である。一方の八重山層群からなる古見(こみ)岳(469.7m)などの西表島の山地は,岩相や断層などに影響されたケスタ状地形の特徴を有するが,比較的定高性のある山頂を示す。その西部では舟浮湾・網取湾など湾入に富むリアス式海岸となる。西表島の浦内川・仲間川などの河川は,下流部で山地に深く開析した広いエスチュアリを形成し,また中流部でカンビレー・マリユドゥ・ヒナイなどの滝をつくっているのも,地質に密接に関係する。低島の台地を詳細に見ると,3~4段の段丘地形からなり,特に波照間島などで顕著である。その他の島は標高20m以下のいずれも低位段丘からなる。また高島の山地周辺には丘陵の発達がなく,すぐにこれら段丘地形が標高80m以下に広がるのも,沖縄本島などと異なる点である。なお,山地を取り巻く段丘は砂礫層から構成され,海岸付近で琉球石灰岩へと移り変わるもので,低島の段丘にない特徴を有する。全体に,山地・段丘を刻む大きな川がないため,石垣島の名蔵川や西表島の浦内川・仲間川を除くと,いずれも小規模な低地しか発達しない。ほとんどの河口の低地は,ヒルギなどが群生するマングローブの湿地となって,熱帯河川の様相を呈している。島々はすべてサンゴ礁で取り巻かれ,国内では最も良好な発達を示す。特に石垣島と西表島の間には長いサンゴ礁がのび,竹富・黒島・小浜・新城の島々を囲むように広大な堡礁を形成している。この囲まれた浅海域は石西礁湖と名付けられているため,全体のサンゴ礁は石西堡礁と仮称できる。その他の地域ではいずれも裾礁であるが,石垣島の東岸と西岸では,波浪条件によりその発達度合いや形成に大きな差異がある。また与那国島や波照間島に貧弱な裾礁しか認められないのは,地殻変動に由来する海底地形が強く影響していると考えられる。気候的には,亜熱帯海洋性気候に属し,年平均気温23~24℃,最暖月(7月)の平均気温29℃,最寒月(1月)の平均気温17℃。年間降水量2,000~2,400mmで,年間を通して雨が降るが,特に梅雨期(5~6月)と台風期(7~10月)に集中する。本土のように四季は明瞭ではないが,冬には大陸からの季節風の吹出しがあり,3月頃には台湾低気圧の襲来を受け,2月風廻りと呼ばれる。5月上旬に梅雨入りし,6月下旬には明けるが,この時期に年間の20%の降水量がある。しかし,太平洋高気圧の消長で空梅雨になると,旱魃の被害に見舞われる。梅雨明け後の盛夏には南からの季節風カーチバイが吹き,台風の襲来が多くなる。夏季は北東季節風の吹出しであるミーニシ(新北風)で終わり,曇天の日が多くなり,冬季には最低気温が10℃近くまで下がる。降水量は豊富だが,低島は保水力の乏しい琉球石灰岩のため河川がなく,地下水に依存するので旱魃を受けやすい。また,地下水の塩水化もあるため,竹富・黒島・新城・鳩間の各島へは,石垣島や西表島からの海底送水施設が敷設されている。このような地質条件のため,土地利用も制限され,高島では水田が,低島では畑が中心となり,八重山方言で前者をタングン(田国)島,後者をヌングン(野国)島と区別する。石垣・西表両島の山地に繁茂する亜熱帯原生林を中心に八重山特有の動植物が多く見られ,植物ではヤエヤマヤシ・ヤエヤマシタン・ヒルギ・ニッパヤシ・サキシマスオウノキ・リュウキュウチシャノキ・ヤエヤマハマゴウ・カンヒザクラおよびこれらが群生する地域が天然保護区域として国または県の天然記念物に指定されている。動物では20世紀最大の発見といわれたイリオモテヤマネコをはじめ,セマルハコガメ・キノウエトカゲ・コウノトリ・アホウドリ・カンムリワシ・リュウキュウキンバト・アカヒゲおよびカツオドリ・オオミズナギドリ・セグロアジサシなどが繁殖する仲之御嶽島は国天然記念物に指定されている。ほかに生きた化石といわれる蝶のアサヒナキマダラセセリやコノハチョウ,与那国島の世界一大きい蛾ヨナグニサン,ミミモチシダ,尖閣諸島のシュウダなどがある。西表島の原生林と石西礁湖,仲之御嶽島は西表国立公園の一部に指定されているが,石西礁湖では近年オニヒトデの害が広がっている。最近西表島の崎山湾で,世界一大きいといわれるアザミサンゴの群体が発見された。昭和55年の八重山諸島の総人口は4万4,314人で,うち石垣市3万8,819人・竹富町3,376人・与那国町2,119人。石垣市は人口漸増の傾向にあるが,竹富町・与那国町は減少傾向にあり,住民の老齢化と過疎化が大きな社会問題になっている。15歳以上の就業者人口は1万9,330人で,総人口の43.6%に当たり,うち第1次産業23%・第2次産業23%・第3次産業54%の割合になっている。農業ではサトウキビをはじめパイナップル・米・野菜などが主に栽培され,牧畜も盛んに行われている。また,地理的位置と自然的景観に恵まれているため,観光地としても発展しつつあり,観光関連産業の従事者も年々増加している。石垣島は,八重山諸島における行政・経済・交通などの中心的役割をもち,石垣空港からは那覇・宮古および波照間・与那国両島へ定期便がある。また,竹富町の各離島および与那国島への船の定期便はすべて石垣港を起点としている。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
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