仏坂
【ほとけざか】

西牟婁(にしむろ)郡すさみ町と日置川(ひきがわ)町の境にある坂。「名所図会」に「火解坂ともいふ。此坂の峠に柱松といふあり。周参見(すさみ)浦と安居(あご)村との堺の山をいふ」とあり，熊野街道大辺路(おおへち)の中で富田(とんだ)坂・周参見の馬転(うまころび)坂・江住の長江坂と並び田辺～新宮間の難所の１つであった。延宝４年の「紀陽道法記」によれば，新宮から上り18町，下り６町で，上りは特に険阻なため荷持賃は普通の1.8倍もかかっている。万延元年には，仏坂には荷物運搬人がおり，「上仏嶺，亦甚険峻有婦人充役担両箱重十余貫健勝男子」（南遊志）とあり，10余貫も荷物を担ってこの坂を上下する婦人に驚嘆している。峠近くには牛市場があり，月の17日の定期市には近在から人が集まり，茶店もにぎわったという（日置町誌）が，今はまったく寂れている。仏坂は，大辺路(おおへち)街道の改修・付替えから取残され，わずかに生活道として命脈を保っているに過ぎない。

KADOKAWA 「角川日本地名大辞典」 JLogosID : 7605526