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帝釈峡
【たいしゃくきょう】


比婆郡東城町と神石(じんせき)郡神石町の境界を流れる帝釈川がつくる峡谷。延長約20km。帝釈川が高度500~600mの石灰岩台地中を穿入蛇行しつつ浸食し形成したもので,深さ約100~200mで北西から南東方向に延びる。大正期国名勝に指定され,比婆道後帝釈国定公園に属している。日本五名峡の1つに数えられることもあり,地質・地形・考古学等の研究地としても重要である。峡谷は,北入口の帝釈地区(東城町)から,峡谷中流部の帝釈川ダムによってできた人造湖神竜(じんりゆう)湖北端の雌(めん)橋付近までを上帝釈峡,神竜湖畔を帝釈峡,ダム堰堤から下流部を下帝釈峡と呼ぶ。上帝釈・帝釈は早くから景勝地として開けたが,下帝釈は景勝地でありながら険しく,訪れる人も少ない。地形学的にみると,高さの違う数段の鍾乳洞穴群があり,周辺の丘陵や河岸段丘との対比から浸食基準面の低下に伴って下方へ鍾乳洞の形成が移り,特に洪積世後期が洞穴形成の最盛期であったことがわかる。洪積世末にはこの洞穴や岩陰を中心に人々が住んでいたらしく,付近一帯で先土器および縄文から弥生時代にかけての遺跡が約40発見され,帝釈峡遺跡群と命名され,考古学上貴重な遺跡として注目されている。帝釈の町には奈良期開基として知られ,帝釈天を祀る永明寺がある。ここから峡谷をしばらく下ると帝釈収蔵庫と帝釈郷土館があり,発掘された縄文時代遺物や自然民俗資料が展示されている。鍾乳洞の白雲洞,溶食洞門の唐門を経てさらに下ると,日本最大といわれる石灰岩溶食天然橋の雄(おん)橋がある。同橋は石灰岩の溶食が進んだ結果,石灰岩台地下にできた洞門に地表を流れていた川が流れ込み,溶食しない部分が残って形成された橋で,幅12m,高さ30m,長さ65mを示し,世界三大天然橋の1つとされることもある。「神石郡誌」に「雌雄両橋は鬼共一夜に相競ふて築き上げしものにて雌橋はその全部を成しとげ得ざりしものといふ」といった伝説が記されている。雄橋下流にはサンゴ類の化石が多くみられ,小滝が連なる断魚渓などがあり,神竜湖に達する。湖畔紅葉橋付近には旅館・土産店が集まり,ここから湖上遊覧船で新緑や紅葉の景勝を楽しむこともできる。帝釈川にはオオサンショウウオや野猿も生息し,石灰岩地域に特有な植物も多い。付近の台地にはドリーネ・ウバーレなどの石灰岩地形もみられ,行楽地として優れた所である。




KADOKAWA
「角川日本地名大辞典」
JLogosID : 7606100