豊[九州地方] 角川日本地名大辞典

対馬の北端に位置する。地名の由来は，豊崎の崎を略したもので，神功皇后が新羅よりの帰路に矛と剣を当地に蔵して本邦の豊かならんことを祝したとの伝説にちなむ（津島紀事）。しかし，崎の下略ではなく，豊が本名であると思われる。九州の北端が豊国，本州の西端が豊浦，対馬の北端が豊とあるのは，新羅へ航行する要衝に共通点が指摘されるからで，当地の浦崎の岬から出土した遺物には，朝鮮半島より舶来した土器とともに，北部九州や山陰方面とかかわる資料が見られる。この石棺群の被葬者らは，半島と列島を股にかけて交易したものと解される。この海上に活動した部族の祭神が豊媛と称したのではないか。沖の聖なる島を椎根島といい，陸繋部を不通浜と称す。式内社島大国魂神社に比定される古社もあるが，本来椎根津彦の祭祀があったのではないかと思われる。島大国魂神社の祭神は，「古事記」に津島の別名として記されている天之狭手依比売と解される。大畑に経塚があり，寧元宝・至和通宝などの宋銭が出土した。
【豊村(中世)】　室町期〜戦国期に見える地名。
【豊村(近世)】　江戸期〜明治41年の村名。
【豊(近代)】　明治41年〜現在の大字名。