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表現精神療法


言語,絵画,遊技,その他の方法で内面を表現することによる精神療法.その一部は芸術療法である.言語による内面の表現には告白がある.他人に語ることはそれ自体に治療的意義がある.悩んだときにはよく友人に話を聞いてもらう.それだけで十分なことも多い.また,他人に語ることで自己を客観的に点検するきっかけになる.そのようにして告白したときにはカタルシス(通利)または通風(ベンチーション)が実現する.煙突がつまって部屋の中に煙が充満しているときに煙突掃除をすればすっきりする.そのような意味でカタルシスは煙突掃除ともいう.防衛機制としての抑圧がある場合,無意識界に抑圧された感情を表現することで,抑圧されていた感情を解放する同時に認知する.そのことによって抑圧により生じていた症状は解消される.抑圧された感情を表現するには通常の自我ではなくやや退行した状態の方がよいこともある.絵画による表現には自由画の他に風景構成法などがある.言語表現をする時とは別の表現回路を使うので,診断的にも重要な情報が得られる.同時に,それは自己の内面のもうひとつの表現であり,ここでもカタルシスが期待できる.絵画は一般に自我を退行状態にするので,その点も有利である.表現するとは,自分の内部にすでに何か確定したものがあって,それを外に出すということだけではない.表現という作業が内面の無形のものに形を与えるのである.例えば言葉を与えられたとき,無形の何かは輪郭をもち,制御可能なもの,理解可能なものになる.また,個人的なものから,集団に共通のものになる.したがって,表現すること自体に大きなエネルギー必要とする.それはただ描いているのではなく,雑然とした状態の心の中を,言葉という整理棚を作って整理をする作業である.例えば,「死のうと思っていた」と本気ではなしに何となくメモに書いたときに,自分の本当の気持ち気付く場合がある.また,「愛」という言葉に接して,自分の本当の気持ち見つける場合がある.人が表現するのは,心にあるものを外に出すためだけではない.表現するときに何かが生まれるのである.表現が内面を生み,内面を耕すのである.




丸善
「こころの辞典」
JLogosID : 12021200